しろやぎ

すばらしき世界のしろやぎのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
5.0
終盤からラストシーンにかけて、泣いていた。なぜ泣いているのか、気持ちがうまく纏まらない。言葉にできそうでできない、宙ぶらりな気持ちのまま、独りスクリーンを後にした。

帰りしな、トイレの狭い出入り口で映画を観終えた人とすれ違う。
立ち寄ったコンビニで会計を済ませ、品物を受け取り、エコバッグへ収める。
3月、道路工事があちこちで重なっているせいで渋滞が起きている中、お辞儀しながら交通誘導している人の横を、車で通り過ぎる。
普段なら全く気にすることがない、他者(社会)との瞬間的な接触に、妙に緊張してしまう自分がいた。
相手が何を考えているのか気になって、自分は何を考えているのか気になって、ひとの気持ちや行動に、過剰に敏感になっていた。

日常の中で、とれだけのことから目を逸らしていますか?自分本位な行動をしていませんか?多数派に同調して、その場しのぎなことばかりではないですか?
静かに、切実に問いかけてくるような作品だった。

社会は未だに閉ざされていて排他的で、寛容な優しい街作りとか差別のない社会なんてものは、達成し得ないスローガンなんじゃないかって気がしてきて、ずーんと気持ちが沈む。
社会の有り様と、その一部である自分自身と、改めて向き合う事ってなかなかしんどい。

ただ、世の中捨てたもんじゃないと思える瞬間があることもまた事実。そんな瞬間っていうのは、独りのときではなくて、誰かと一緒にいる時に訪れるもので。
結局、人は人との繋がりの中で生かされてるんだと振り返る。

「 周りの人や環境に、感謝しよう」
「ひとに優しく、思い遣りを持とう」
みたいなことではなく、この『ろくでもなくすばらしき世界』をありのまま受け入れることから始めようと思う。

そして、広い空の下で人との繋がりを持って、秋桜の花のように、周りと調和し謙虚に生きたい。そして、この作品を観る前の自分よりも、少しでも真っ直ぐで在りたいと思う。
しろやぎ

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