ちびねこ

すばらしき世界のちびねこのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.2
あっという間に見終わってしまった作品でした。
これはヤクザ映画では無くて、ヤクザが刑務所から出所していかに更正しようと頑張るか、という話です。

本当は優しくて真っ直ぐで人情味溢れた人間なのに、長い間に染み付いたヤクザの素行や立ち振舞いによって、キレると手の付かない状態になってしまう。
それが故に人生のうちの28年間もの獄中生活を送って来た。

取り敢えず、ヤクザは駄目、どんな理由があっても絶対に駄目。
そんな事は分かっていてもどうしても足を踏み入れてしまう時もあるかもしれない…
でも、やっぱり駄目。
その時はもう自分の人生は終ったものと覚悟しないと駄目だと思う。
途中で足を洗おうとするのならば。

三上は出所してから、周りに凄く恵まれていた。
庄司夫婦、スーパーの店長、役所のケースワーカー、そしてテレビマンの津乃田。
実話と書いてあるけど、スーパーの店長がお金を貸してくれる場面…。
あれが本当ならなかなか凄い話だと思う。

そして三上も頑張って、老人ホームの介護補助としての働き口が見つかった。

そこに知的障害?のような阿部が働いているんだけど、花を植えながら虫が見つかった!って手を止めて顔を触って真っ黒にする。
それを横で一緒に作業しながら笑っている三上。

ある日、用具を運んで来た三上は、阿部が他の同僚から虐められている所を見掛ける。
憤りの無い怒りをぐっと我慢する三上。
他の社員達も皆、悪口を言いながら笑っている。
目の前のハサミを見ながらまたぐっと我慢する。

帰る時に阿部から「コスモス、嵐が来る前に切ったからちょっと持って帰る?」って言われた時。
あの三上の涙には泣きそうになりました。
役所広司、上手いなぁ。

結局、こっちの世界にも酷く汚く許せない事は山ほどある訳で。
相手に精神的な苦痛を与えることが目的のいじめや嫌がらせ。
身体的な暴力が無ければ他人には気付かれにくい。
耐えきれなくて自殺する人だっている。
社会人、学生、関係無く。
これがヤクザがヤクザを刀で切り殺してしまう事と一体何が違うのか。
確かにヤクザと一緒には出来ないけど、あの虐めていた2人にも刑務所に入って法の元できちんと裁かれてほしい。
大袈裟かも知れないけど、それくらいじゃ無い限り虐めは絶対に無くならない。
ヤクザも駄目だけど、虐めだって同じくらい駄目なんです。
他にもいい場面は沢山あったんだけど、この三上の涙が私は一番心苦しかったです。

ラストの青空の中「すばらしき世界」。
三上の思いならば、一体どこなんだろう…。

余談ですが、津乃田役の仲野太賀って仲野英雄の子供だったんですね。
チョロ~
歳がバレますが(笑)
ちびねこ

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