えくそしす島

すばらしき世界のえくそしす島のレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
3.7
とても難しいテーマの作品。

あらすじはこうだ
人生の大半を刑務所で過ごし、13年ぶりに出所した三上は元殺人犯。小説家志望の津乃田は、TVのプロデューサー・吉澤の依頼で三上を取材することになるが…

原作は佐木隆三の「身分帳」で実在した人間を描いている。

身分帳とは、刑務所で収容者の経歴や入所時の態度などが事細かーに書かれた書類の事だ。
それを読めば「文字で知れる」その人の情報が全てわかる。

原作とは大きく時代背景を変えて、出所後の生きづらさや生きることの難しさ、現在の支援制度の在り方を描く。


この問題は支援を手厚くすれば済む問題では無い。市民の理解も得られ難い。
出所後しかり、生活保護しかり、支援を手厚くすればするほどその穴を突く者がどうしても出てくる。真っ当に働いている人達ですら生きるのに精一杯の中、非常にデリケートな問題でもある。三上のような人達の受け皿の問題もある。
個々に合わせた支援制度は不可能だ。

だが、この作品は支援制度の不備を描いた作品ではない。

只々、1人の男の生き様を描いた作品である。

支援制度の闇やグレーゾーンを描いた作品ならば、ケン・ローチの「わたしは、ダニエルブレイク」の方が強烈に描いている。

私見だが、この作品の役所広司演じる「三上」は幸せ者だ。
他国込みの話にもなるが支援制度や出所後の生きづらさの闇などこんなものではない。

三上には目を掛けてくれる人がいる。
親身に話を聞いてくれる人がいる。
自分に出来る限りを尽くしてくれる人達がいる。
それ故に改めて自分を見つめ直せる。
それだけで幸せだと感じる人生を送っている人は数多くいる。

作品には揶揄や皮肉も込められてはいるが、だからこその「すばらしき世界」なのだろう。

この手の作品はリアリティが非常に大事である。現実世界とリンクし、さらにその底にあるものを表現しなくてはならないからだ。

それを完璧に演じた役所広司。他作にも言える事だがこの役者には感嘆しかない。
演じるではない、もはや三上そのものの「人間」になっている。

それと対比して一部の役者達がはっきりと見劣りする。リアルに見せなくてはいけない場面でもリアリティに欠いた部分もあった。

特にラスト付近の演出と演技には違和感を感じた。
それまでの現実かと見紛う如きだったものが虚構だと認識してしまう程にだ。

役所広司だからこそ素晴らしい作品となり、役所広司だからこそ勿体ない作品とも言える。

いやーしかし、人間味溢れる三上が大好きすぎる!