近代以後に生きる人間にとって、神なき世界における実存は所与なのだけど、この映画の舞台であるペスト流行中の中世ヨーロッパに生きる人間にとってその意義は大きい。
主人公は神を信じて馬鹿げた十字軍遠征に参加して帰還した騎士。
映像による詩であり不条理文学・実存主義文学
そういえば『野いちご』でも神の存在を議論するシーンがあったなぁ。
森のシーンはどれも絵がいい。行きずりのペスト罹患者が森の中で死ぬシーンの画面構成がとても良かった。
あと『ペルソナ』を観た時も思ったけど、ベルイマンは眼球の撮り方がいい。
神の沈黙をテーマとして扱っていて、神はいないのか?あるのは死(神)だけなのか?と問うような映画なので、どんなにみじめな場面でも当然神は登場しないが、ヨフが序盤に聖母マリア(らしき人物)の霊示(vision)を目の当たりにしているのはおもしろいところ。
作品の外の話だけど、この映画は1959年公開。
映画ではないけど、ペストと不条理を扱った文学作品としてはカミュ『ペスト(1947)』『戒厳令(1948)』があるし、不条理な世界における神について扱ったものとしてベケット『ゴドーを待ちながら(1952)』を思い出す。
そしてこれら不条理文学の前触れとも取れるサルトル『実存主義とは何か』は1946年。
日本でも安部公房『砂の女(1962)』、遠藤周作『沈黙(1966)』もこういう系統?
映画だとブニュエル『ビリディアナ(1961)』も?
2度の世界大戦とその後に続く冷戦が、ただただ不条理な神なき世界を認めんとするムーヴメントのダメ押しになったんだろか。知らんけど。
ってか病気と戦争は人間にとっての不条理イベントトップ2やな。そしてなんでその二つかというと、やっぱりそれらで人間はあっけなく死んでしまうからなわけで、この映画の重要なセッティングとしてペストと十字軍遠征が出てくるのは納得。