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花束みたいな恋をしたのanzのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
3.8
わたしと同じあなた/わたしは特別である。サブカルチャーの羅列は二人がいかに浅薄で凡庸であるかを浮き彫りにし緩やかに崩壊していったわけだが「宝石の国」が号泣する漫画であるとは言い難いのでは?(異論は認める)「ゴールデンカムイ」はどう考えてもポップカルチャーど真ん中なのでは?などとサブカルチャーとして提示される記号を前に鑑賞側の頭に浮かんでくる疑問は「ショーシャンクの空に」を提示された時の麦と絹が見せた自意識そのもので作り上げられた構図に唸ってしまった。絹パパに「ワンオク"聴けます"」と言った麦の自意識など絹パパは一切意に介さず。就職後の生活の中でゲームをし始めた絹に対し悪気もなく(むしろ配慮として)麦がイヤフォンで分断するシーン。もう出会った頃のように特別で同じ二人でいることができなくなる。日常のごくありふれた描写の切り取られ方に胸が抉られる。冒頭から「クロノスタシス」をカラオケで歌い缶ビール片手に首都高脇を歩く様子も京王線沿線の街にも歓喜に満ちた怠惰な半同棲の浮かれ具合なども己の過去を投影しないではいられないし眩しくも暗澹とした思いで鑑賞し続けた。ファミレスの定位置の席に座れず少し離れた場所から清原果耶と細田佳央太を見つめ過去を投影し終わりを迎えるシーンは秀逸だったがファミレスでこっちを凝視しながら号泣しているカップルがいたらめちゃくちゃ恐ろしいなと思った。明るく終わっているようでどう見てもハッピーではないしこれからも同じことの繰り返しを示唆するような終わり方。偶然出会って帰宅した後の二人の独白には五年の時を共にしたとは思えないほど浅い水溜り程度の感傷しか感じられない。麦がGoogleマップにかつての二人の姿が写っているのを発見し興奮するもそれで何をするわけでもなく然して感傷的にもならない。絶妙にヘルシーで健全な後味に毒気を抜かれてしまった。「最高の離婚」や「カルテット」のようなピリピリする皮肉の応酬や会話劇であったり一人一人の登場人物にフォーカスして深掘りしていく細やかな描写が大好きだけどそれらを入れるには何倍かの尺が必要なんだろうな。面白かったです。
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