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ドライブ・マイ・カーのanzのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.0
夜明け前の逆光で表情が見えない霧島れいか。冒頭から不穏の匂いがする。騎乗位で西島秀俊の焦点の合わない虚ろな目と対面座位で無表情の霧島れいかの二人がどこにもいけず救いがない様を描く演出がいい。夜の都市の俯瞰ショットと広島市内のゴミ焼却場の描写、最高では。海沿いの階段でライターを渡して三浦透子が煙草の火をつける時に風を避けてくるりと身を翻すシーンが見事で完璧なショットだった。岡田将生の顔が取り柄のクズ男の闇発動シーンは嫌いじゃない。闇発動後に西島秀俊が後部座席から助手席に移るまでの三浦透子との距離感を丁寧に描いていたのがよかった。しかしながら"人は生きなければならない”というメッセージに後半から喧しさを感じてしまう。岡田将生との車中対話シーンで岡田将生が物語の続きを語るところまではいいがその後の原作にある「本当に他人を見たいと望むなら、自分自身を深くまっすぐ見つめるしかない」のテーゼが絶妙に浮いてしまっていたように思う。一方で北海道入りした後の三浦透子の「(嘘も本当もなく)それがそのまま奥さんだったんだって思うことはできないんですか」という台詞はすんなり入ってきた。その後の西島秀俊のシーンは興醒めになってしまったが…(後述)。昔から多言語映画が好きなので映画の中で複数の言語が使われていると非常に嬉しくなってしまうのだが、本作はこれまで鑑賞したどの多言語映画とも違う身体を通じた対話とコミニュケーション手法を交えたものだったので目を開く思いであった。稽古シーン以外の妻の声の台詞のテープなど各所に散りばめられた演技へのアプローチにおける緻密なプロットが素晴らしい。安部聡子の端正で聞き取りやすい発話、女優然としていた。パク・ユリムの透明感と演技に心を動かされ忽ち好きになってしまった。ソニア・ユアンと公園での演技シーンの瑞々しさ。ラストのチェーホフ劇中の西島秀俊まで観て思ったのは申し訳ないけどやっぱり西島秀俊のことをどうにも好きになれないということ…。「ニンゲン合格」の演技は好きだったけど彼が出ている作品を観るたび咀嚼も嚥下もしづらい違和感を感じまた演技の振り幅の狭さに俯いてしまう。空っぽ優男役が合うという点では今作でハマるところもあったように思う。ともあれ西島秀俊を横に置かなくても傑作だと思った。「今いるところよりも暖かいところに行く」のはまさに春樹的展開と思ったけれど美しい海や市内の様子にまた広島に行きたくなった。
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