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花束みたいな恋をしたのKOTONEのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
5.0
高校卒業以来会っていない友人のインスタグラムの投稿をみて、温めておいた作品を思い出す。
それが 花束みたいな恋をした だった。
タイトル、キャスト、監督・演出、話題性から覚悟して観なければいけない作品であることは察しついていた。
そしてわたしは京王線で育ったのだ。

まずふたりの名前から愛おしい。
麦と絹?最高のふたりじゃないか。
作品の中にはわたしが折り目をつけた愛読書や聴き慣れた音楽、いろんな身近なものが出てきてまるで自分の過去を見せられているかのようだった。
飛田給、調布のパルコ、府中のくりばやし。
わたしの青春もそこにあった。
幸せなふたりを目に映しながら自分の過去が走馬灯のように駆け巡り、心がざわざわしてしまう。
作品に集中できない。
さて、わたしには麦や絹のような相手はいたかな、とiPhoneの写真データを遡りつつ作品を観た。
わたしの人生での麦や絹のような存在だったのはこいつかな?とあの頃の若さや勢い、匂いやあたたかさを思い出す。
同じ感性、同じ趣味。
そんなふたりの時間はどんなに幸せか。憧れでもある。
今の大人になってしまった自分の現状を思うと、どこかで間違ったんじゃないかとさえ疑いたくなる。
そして虚しくなる。
そんな作品と現実を行ったり来たりしているうちに、麦と絹にも変化が訪れていた。
わかっていた。この作品の結果ぐらい。
わかっていて観るからこそ、この作品はいいんだ。
羨ましく思えた1時間前のふたりも2時間後には今のわたしの現状とそう変わりはなかった。
さっきデータから無理矢理引っ張り出した過去と続いていたとしても、結局は今と変わらなかったのだろう。
それなら今の生活を虚しく思う必要はない。
ただ、そう思ってもこの作品のエンドロールではなぜか涙が止まらなかった。
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