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木靴の樹のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

木靴の樹(1978年製作の映画)
3.5
【この世界の片隅に手を差し伸べる】
「死ぬまでに観たい映画1001本」掲載の『木靴の樹』を観ました。映画に嵌り始めた中学生の頃、『旅芸人の記録』とか『Z』とか『友だちのうちはどこ?』とかミニシアターアート映画を追っていたのですが、『木靴の樹』は中々遭遇できず結局観るタイミングを逃して10年近く経った。今回クリスマスプレゼントとしてブルーレイを買って観たのですが、これが観応えがありました。

「死ぬまでに観たい映画1001本」の記事って基本的にライトで、モノによっては「コタツ記事かな?」と思うライトなものもあるのですが、たまに気合が入った文章がある。『木靴の樹』はまさしくそうで、観賞後に読んだら自分が思っていた部分と一致していて嬉しくなった。本作は、いわゆるネオ・リアリズモを意識した作品であり、貧しき農民の暮らしをドキュメンタリータッチで撮っている。そう聞くと、長回しを使っているのではと思うのだが、本作はカットを割り、次々と農民の姿を多角的に魅せていくことで、世界観にふくらみを与えている。

2/3を地主に取られてしまう村。働き手である子どもを学校に通わせなさいと神父にいわれ、困惑する父親に始まり、貧しい中にある淡い恋物語があり、かと思えば唐突に鶏の解体が挿入される。日常において、様々な感情やアクションが地続きにあることをこの映画は3時間かけて紡ぎ出す。本作がパルム・ドールを獲ったのも納得である。本作はこの世界の片隅に手を差し伸べることに特化しているので、視点がこれまた美しく、心に染みる。貧しい生活だが、町で祭が開かれると皆童心に返ったように遊ぶ。また、家の熱を使ってトマトを育てようとする何気ない生活の一部にも光を当てており、その美しさには感動を覚える。

若干、中盤あたりで退屈してしまった部分もあるが、エルマンノ・オルミのリアリズムを堪能し、明日の仕事頑張ろうと勇気づけられました。
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