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カモン カモンのcyphのレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
4.3
マイクミルズのいいところが高濃度で析出されてそれがずーーっと続くっていう最高傑作だった 会話も編集も上手すぎるし各都市の子どもたちへのインタビューという企画も素晴らしい(あれは彼らの生の声を実際に採用しているそう) 子どもを無垢なる虚空として描く作品はぜんぶfuck offって思うんだけど、本作は子どもを不確実性の権化、内側で何が起きているかそれがいつ外側に爆発するか子ども本人もわからないというアンコントローラブルな爆弾 それがゆえの未来志向性として描いててその知的で誠実な態度が超〜〜〜最高 信頼できる作家がいる世界うれしい素晴らしい

子どもと共にある時間、一瞬先すら読めない唯一無二の時間の追体験映画なので一歩間違えたら血が噴き出るかもしれないようなひやひや感がずっと続くのだけどそれがほんとうに幸福な映画体験だった 過剰な抑揚も退屈もなくさらさらとなんてことないかのように提供されるこの上なく覚えのある極上のサスペンス そしてそれはこの瞬間には血が噴き出なかったという安堵の連続体でもある 泣きたい気持ちはいつだってたましいの交代浴からだよね

確かに病的な要素は内包されてるもののひとりひとりは知的で協力的で魅力的な人物なはずなのに家族という枠組みの中で身を守ろうともがくうちに気づけば出口のない泥沼で身動き取れなくなってしまう、それも決定的な別れではなく生温い没交渉やぎこちない電話口の挨拶なんかを通して そんな家族観だけでも100万同意で大号泣不可避だというのに、本作ではジェシーという未発達な・未来(=可能性、不確実性)を多分に孕んだ早熟な子どもが彼らの中心に位置するがゆえにくよくよする余裕も与えられない 子どもという不可逆に傷つきやすいたましいの側に立つということの否応なさ・訳もわからず走り切るしかないがむしゃらさを現実的な映画として、または映画的な現実として(マイクミルズ本人は本作をバスターキートン式と呼んでた)フラットに描ききるスマートさよ

あとやっぱりジェシー役のウッディー・ノーマンの演技が素晴らしかった この子の言葉や振る舞いがト書きによって発生しているなんて信じられないし、この子がこのサイズの身体でいるのは最早このフィルム上の時間だけなんてやっぱり信じられない アドリブもある程度混ぜ込みつつホアキンと彼との親密な関係を土台に撮影されていったそうでそれもほんとうに納得がいく インタビューも13歳なんて信じられないくらい大人びていて、この子に宿る未来についてつい思いを巡らしてしまうのでした 完
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