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カモン カモンのウェスyouthkのレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
5.0
 初めに、この映画のあらすじについて説明します。舞台はアメリカで、ラジオジャーナリストであるホアキン・フェニックス演じるジョニーが彼の妹のヴィブが留守の間、甥っ子である9歳のジェシーの世話を見ることになり、今まで子育ての経験のないジョニーは天真爛漫で少し生意気なジェシーに振り回され、子育ての厳しさを味わいながらも一人の男性が子供と誠心誠意向き合うことで感じられる愛情や、子供も大人たちと同様悩み、葛藤しながらも明日に向けて歩んでいくという世代を超えた普遍的な思いを感じていく、ハートウォーミングな作品です。甥っ子のジェシーとジョニーの関係は少しぎこちなく、そして甥っ子であるジェシーの父親は精神疾患を持っており、ほとんど父親とは一緒にいることができず、また彼の母親も父親の世話で手一杯な状況です。それに加え、主人公であるジョニーと彼の妹も彼らの認知症の母親の介護をめぐり不仲な状況です。このような登場人物がお互いに少し距離のある関係にある中、それぞれが互いのことについてしっかりと向き合い、対話することにより理解を深め、関係を再構築していくという、「コミュニケーション」ということがこの作品のメインテーマとなっています。例えば、甥っ子のジェシーとジョニーがヴィブについて話し合うシーンがあるのですが、二人が母親としてのヴィブ、妹としてのヴィブ、そして一人の女性としてのヴィブというように一人のヴィブという人物にも様々な人物像があり、一緒にいる家族であっても自分の知らない姿、思いがあるのだなと思わされ、人の隠れているものはしっかりと言葉を通してのみ伝えることができるのだなと深く考えさせられました。
 子供特有の生意気さや核に迫る大人が動揺してくるぐらい死角から攻めてくるような質問をする子供の観察力や好奇心など、誰もが経験しているが忘却の彼方にある子供の特性をリアルに描写しています。ジェシー役のウディノーランの嘘偽りのない演技には脱帽です。

 そして、作中ではジョニーのラジオ記者の仕事としてドキュメンタリー調にアメリカの小学生、中学生たちにインタビューをするシーンが挿入されています。質問の内容はあなたは幸せ?、アメリカは良い国?、自分がもし君の親だったら何を伝えたい?天国はある?自分のどこが嫌い?等々かなり少年少女たちのアイデンティティや信条に深く踏み入った質問が多かった印象です。子供たちの質問に対する答えは非常に哲学的です。マイクミルズ監督は今までの作品で家族の知られざる一面や家族であるからこそ見ることのできない姿、何かに依存してしまう人間の弱さなどを描いてきたが、今作ではそのスケールを拡大し、アメリカの子供達の大人が知り得ない姿、考えを伝達し、まさに世代間理解またはコミュニケーションの重要性と扇動を主張しているのではないのでしょうか。
 セリフも素敵でジェニーがおいのジェシーにラジオジャーナリストの仕事について質問された時に放った「平凡を非凡にするのは最高にクールだよ。」というセリフが印象深いです。また、「大丈夫じゃないのが大丈夫」という包容力のある温かいセリフも好きです。
 この映画のテーマは「君の声を聞かせて」です。私は家庭教師のアルバイトを通して中学生の生徒さんと触れ合う機会が多いため非常に共感したり、もっと彼らの声を聞きたいなと思わされましたし、それに加え、もちろん今まで以上に家族とのコミュニケーションを大切にしようと実感しました。私も普遍的ではあるが全世代に共通する人の性質や心情を再確認できるような映像作品を制作したいと強く思わされた一作です。
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