いとまど

ミッドナイトスワンのいとまどのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
3.8
去年全裸監督にハマった時、内田英治監督は人間や社会のダークサイドな部分をエンタメ性高く見せることが上手いんだなぁと思った。
ミッドナイトスワンも下調べはあまりせずとも、題材の複雑さや、夜の世界が絡んできていることもあって、どんな見せ方をしてくれるのか興味深くあった。

結論から言うと、各々の生きづらい要素の中でバレエが一筋の光のようにただただ美しかった。が、いかんせん、要素が多い…(特に後半)という印象。
あまり多くの説明はせずシーンが展開がされるので、驚くこともあった。その分ダイレクトに肉体、感覚に訴えるような体験でもあった。

冒頭、広島からの夜行バスが東京の街へ向かっていく、ヒリヒリするような都会の景色がとても綺麗だと思った。
セットや小道具がリアルなので、夜のお店からはキツイ香水やタバコのニオイ、狭いアパートからはこもった空気やシンクのニオイなど、嗅覚までに訴えてくるような空気感だった。

バレエは小さい頃から習って基礎ありきで踊れるものなので、一果がちょっと教室に通っただけであそこまで上達するとは考えにくい。(考えちゃダメでもつい考えてしまう)
でも一果のダンスを見たら、目が釘付けになり、そんな理屈がどうでも良くなるくらい綺麗だなとしか思えなくなった。それぐらいの説得力があったんだから仕方がない。それは皆の希望の光でもあったし、その光の強さゆえに誰かが影になって悔しい思いをしてる姿も思い出される。

凪沙さんの家にあった漫画が『らんま1/2』のところにクスッとした。でも、小さい頃からジェンダーに悩んだ彼女は、らんまのように水を浴びるだけで女の子になれる姿に憧れていたのでは。
精神的にも肉体的にも母親を目指した凪沙さん。それが正解なのかは分からないけど、ずっと痛みと戦ってきた姿が最初から最後まで描かれている。凪沙さんと一果が夜に公園や手すりを使ってダンスをしている姿は、親子であり戦友のような、とても尊いものに見えた。
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