ひなりんこ

ミッドナイトスワンのひなりんこのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

現実に夜の世界に生きるトランスジェンダーの彼女達が幾ら稼げているのか、身体のメンテナンスにどれだけ費用がかかるのか分からないが、生活のつましさが切なかった。
そして一果のようなネグレスト被害の子供が街のどこかにたくさんいるんだろうと思うと苦しくなる…

親戚関係にある2人の出会いと共同生活。凪沙が一果の痛みに向き合い、一果も凪沙の痛みを知る。希望の光でもある一果のバレエシーン、2人が心通わせていく時間がとても美しい。ハニージンジャーポークとサラダを食べる食卓、一緒にバレエの練習をする姿も愛しかった。
バレエの先生に「お母さん」と呼ばれ、嬉しさを隠せない凪沙。先生の偏見の無さも凪沙には嬉しかったのかもしれない。
でも一果の為に生きようと決意しながら、結局は実母に連れ去られてしまう。
凪沙の目の前で母にすがってしまう一果。例えどんな親でも子供にとっては一番の存在なのだ…

母になる事を願う凪沙の身に降りかかる悲劇。
ようやく再会を果たした時、凪沙の身体は既に死に瀕していた。
幼少期、学校の行事で行った海の思い出。女の子のスクール水着が着たかったのに、何故自分は海パンなのか?悲しい記憶以来、海には行っていなかった凪沙。
彼女の願いで、2人は海に向かう。

視力も衰え、意識も朦朧とした凪沙は砂浜の流木にもたれ掛かり、スクール水着の女の子、そして白鳥が見えるとつぶやく。

「海に白鳥なんているわけないじゃん」一果の言葉。

凪沙も一果も真夜中の白鳥だったとするなら、凪沙が行きたかった海に白鳥は存在しない。その現実が悲しい。
でももう一羽の白鳥は海岸で華麗に舞い踊る。


中盤からハンカチもマスクもグジョグジョになるくらい泣いた。

草彅さん、素晴らしかった。
一果を演じた服部樹咲ちゃんも新人とは思えない存在感。

ただ要所要所に残念な部分もあり、一果はバレエ経験者を匂わせながらあの家庭環境においてどんな経緯でバレエと出会っていたのか?説明がない。
親戚とは言え、独身一人暮らしの男の元に、中学生の女の子を預ける設定も腑に落ちない…等。
何より、物語が凪沙の死を前提に進んでいく事。映画として着地点を決めるのは当然だけど、結果的な死と言うより、死に向かう描かれる方をしていたのが残念だった。
母になりたい→性転換手術の決意→術後の容態悪化…
引越していた事から、以前の仲間達と距離を置いていたのか?と想像は出来る。けれど、ボランティアがお世話をしていた設定上、あんな状態の人間を何故病院へ連れて行かない?との疑問も。

作品によってはイメージで補填する世界観もあると思う。
でもこの作品は人間を生々しく描いている。そしてバレエシーンが本格的で、圧倒的に説得力があった。その分、あと少しのリアリティが欲しいと感じてしまった。
もう一点、ラストの一果の台詞「見ていて」も、突然物語めいてしまい、いらなかったかな…

出演者の演技が素晴らしかっただけに、感じてしまった「欲」でした。

エンドロール後の絵画のような美しい映像。
凪沙が回復し、実は何処かで生きている世界線があっても良いのではないか…
そんな妄想をしてみる…涙


草彅さんは勿論、樹咲ちゃんの今後の活躍を期待しています。
ひなりんこ

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