Violet

ミッドナイトスワンのVioletのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

まずひとつ言いたいのが、渋谷 慶一郎の楽曲とピアノが素晴らしい!
メインテーマのMidnight Swanが流れるたびに涙が流れたし、家に帰って真っ先に調べた。切なく美しく、それでいて力強い、作品に寄り添った楽曲だと思った。

ミッドナイトスワン。真夜中の白鳥。
「白鳥の湖」でオデット姫が真夜中だけ本当の姿に戻ることができたように、凪沙は夜になると自分の本当の姿を見せることができた。性の悩みを持つ凪沙たちにとってのこの世の中の生きにくさを物語っているタイトルに感じた。

予告で見た時からこれは映画館で見たいなと思っていたけれど、本当に見て良かったと思った。正直に言うと、想像を遥かに超えて辛い内容で、自分の知らないことがたくさんあって衝撃を受けるシーンも多かった。

「オカマバー」で働く方々って勝手にとっても明るいイメージがあったけど、凪沙が家に帰ってひとりで「なんでわたしだけ」そう言いながら泣いていた姿を見て胸が締め付けられる思いになった。
家族からバケモノ呼ばわりされ、本当の自分の姿を拒絶されたシーンはもう苦しくて目を背けたくなったほど。
世の中の「当たり前」とされていることや「ふとした言葉」が性に悩む人々を知らず知らずのうちに傷つけていることを痛感した。

凪沙と一果がだんだんと心を通わせていく過程が心地よかった。凪沙が一果を見つめる眼差しは母親そのもので、草彅剛の演技力をまざまざと見せつけられた。夜に2人でバレエを踊るシーンは本当に良かったなあ。

登場する人たちのほとんどが人生の崖っぷちにいる。
トランスジェンダーとして悩みを抱えている凪沙。
親のネグレクトにより声を失った一果。
子育て能力がないと判断され娘を奪われた一果の母親、沙織。
お金に困ったことはないが家族からの愛に飢えていたりん。
恋人の男のために自分を犠牲にする瑞貴。
みんな日々の生活を送ることで精一杯の人達だけれど、最終的に本当に愛する人がいる人だけが救われた。
凪沙は自分自身のことでも悩みが尽きない中、一果の可能性を、夢を、潰したくないと奮闘した。
さらに、沙織もはじめはどうしようもなくダメな母親だったが、その後の卒業式の様子を見る限り更生しているように見える。一果のちゃんとした母親になるために。
一果は凪沙と出会って初めて「家族」を知った。
人生に希望や光をもたらしてくれるのはやっぱり「愛」でしかないのだろう。

性転換手術を受けた凪沙は体も心も女性になったけれど、その後のアフターケアを怠ったが故に患部出血や感染症による失明までも併発し、若くして亡くなってしまった。
けれど、凪沙の望んだ通り、一果は世界で活躍するバレエダンサーになった。
血は繋がっていなくても、体が女性じゃなくても、凪沙は一果の母親だったと思う。

心と体の性が一致して生まれた人は、異性になるためにホルモン注射をすることもなければ、家族や友人に隠すことも、就職で障害になることも、街中でじろじろと見られることも、体を異性にすることも、ない。
でも、と考える。
自分がそうだったら。
きっと当人たちの気持ちを完全に理解することはできない。映画でも表現されていたようにLGBTは当人たち以外から見れば「最近の流行」であり「勉強するもの」として捉えられている。
それでも、この映画を見ることで彼ら彼女らの抱えている苦悩が見えると思う。
辛く苦しい内容ではあるが、是非是非多くの人に見てほしい。

小説の映画化だから、ストーリーが省略されているんだろうな〜と感じる点があった。キャラクター1人1人をもう少し詳しく描写してくれたらもっと良かったかも。原作が気になるなあ。
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