ちのも

ミッドナイトスワンのちのものレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
2.5
草彅のヒトとしての美しさに感心したのと、そこから観た予告編での違和感(男性の姿が描写されていたので、まさかこの2020年に結局男として生きなければ幸せになりませんでした、っていう話じゃないだろうな、という疑念)を確かめたくて鑑賞。

役者勢、個人・家庭の事情がそれぞれある難しい役を皆演じきっていて感動した。少しずつ互いに心を開く凪沙と一果の顔が徐々に精気を取り戻していくのがよく伝わってきた。また、滑り台を滑るように転がり落ちてやつれゆく瑞貴、お金はあっても満たされず、習わされていたはずのバレエがやはり好きだったりんもとても良かったと思う。
夜の公園で凪沙と一果がふたり踊るシーン、夜なのに暖かく美しい。

が、これ以上の点はつけられない。

ネグレクトと子の成長、LGBTとしての生きづらさを扱う映画が出てきたことは素晴らしい。児童ポルノなどにもスポットを当てたのは良かった。

が、その一方で本作は殊更にマイノリティであることの悲劇を強調することで、いわば感動ポルノとして当事者を搾取しているのではなかろうか。



例えば以下のような点。
・性転換手術が酷い術後不良を起こす危険があると認識させる描写(ニューハーフタレント達ははラッキーな勇者なのだろうか?)
・凪沙を慮りながら救急車を呼ぼうともしない一果(15歳の少女は大事な人の生命の危機に際しての判断力もない?既にりんも亡くしているのに?)

数年前、漫画原作のドラマで「やりがいの搾取」という言葉があったが、本作はLGBTや子どもを記号化し搾取してはいないだろうか。
感動が呼べれば、殊更に悲劇の主人公として強調したり、命に関わる正しい判断ができない人間として描写してもよいとは私は思わない。映画とは感動を呼ぶことができれば人々を殊更に無知でか弱いものとして描いてもいい、という時代は、多分世界基準ではもうとうに過ぎ去っている。

他にも急に改善する母子関係に伴い、「結局親元で過ごした結果幸せに留学の切符をつかむことになりました」的なのもひどくご都合主義に感じた。手術の失敗率より親の虐待がなくなる率の方がよほど低いと思う。手技の失敗は手順の改善で改めることができるが、人の生き方というものはそうそう改められるものではない。

繰り返すが役者と視点は素晴らしい。ご都合主義、感動させたいという気持ちを乗り越えた作品が現れることを切に願う。

あとは細かいことだが作業現場のヘルメット後に書く氏名はひらがなやカタカナで名字だけ書くよう決められていることが多い。危ない!というときに名前を呼べないと困るから、視認性良く読みに困らないようにする。こういうディテールも世界を作る上で大事にしてほしい。一瞬で醒めてしまう。

追記。LGBT当事者の方の「こういう話を観客が求めている」という指摘に深く納得。絶賛のコメントの嵐がそれを如実に物語っている。
本作のような作りの物語が「白人しか出てこない」「有色人種がバカで間抜けor犯罪者」並にそう描いてはならないと認知されるようになったらいいと思うし、そのためにも周囲にその認識でいいの?と問いかけていきたいと思う。
ちのも

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