三樹夫

由宇子の天秤の三樹夫のネタバレレビュー・内容・結末

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

テレビ局の外注でドキュメンタリーを作っている主人公が、自分が今まさに作ってるドキュメンタリーと同じ状況になる。報道でいかに人の人生が潰れるのかというのと、何が真実か真実じゃないかが分からなくなり、そして最終的には被害者的立場であった女子高生の父親(完全被害者ってわけでもないし、被害者だからといってそれでいいわけでもないが)も主人公の首を絞め加害者的立場に回り、登場人物皆の人生がぶっ壊れるというもはやノワール映画だった。
登場人物皆が本当のことを言ってるわけではなく、あるいは言っているのかもしれないが、本当のことを言っているのか、嘘を言っているのか、噂に流されているだけなのか、本当のこと言ってるけど微妙に思い違いや嘘や願望などが混じっているのか分からない。嘘を言ってるにしても悪意ではなく善意や何かを守るためというのが辛い。小さなボタンの掛け違えで登場人物皆不幸になる。そもそも主人公自体が産婦人科とかに嘘を言っているので、これはこうでしたと白黒はっきりはしない。主人公はそのことを重々承知なので、真実か嘘か曖昧模糊な世界の中で唯一はっきりしているものとして、時間が完全に正確な時計を大事にしている。

結局女子高生を妊娠させたのは主人公の父親かどうかは分からない。女子高生が売りやってたのも作中では同級生と女子高生の父親が言ってるだけだし、本人も言われた時に反感を露わにしてたので実際どうかは分からない。だた女子高生が言ってることも本当のことを言ってるのか分からない。女子高生に関しては、主人公の父親と女子高生がセックスした時の証言が微妙に食い違ってる、70点を80点取ったら時計貰えると自分の父親に言っていたなどの積み重ねで、本当のこと言ってるかどうか分からない不信感のようなものが芽生えるようになっている。
妊娠したのは誰の子供かってのは科学的な検査すれば分かるのかもしれんが、実際に妊娠させたのが誰であれ、塾生に手を出したということで父親とその家族である主人公の人生は潰れ、女子高生とその父親も人生が潰れることがほぼ決まっているという救いようのない状況。何なら他の塾生も何らかの影響を受けるかもしれないという、陰鬱な気持ちになる。

主人公は基本悪い人間ではないけど、いい人でもあるし結構嫌な奴というアンビバレントな人物(人間それが当たり前なのかもしれないが)。勝手に外観撮ったり、かっこよく放棄してるのかもしれんけど結局尻拭いするのは上司のおっさんだったりと、ある人にとってはすごくいい人(教師の姉親子とか)、ある人にとっては嫌な奴と多面的な人物造形がなされている。俺は後輩だからとか年下だからみたいな上下を作って一個人として見ないのはどうかと思ってるので、主人公は嫌い(基本悪い人ではないと思ってるけど)。何回か女子高生の頭ポンポンしてたけど完全に自分より下だと思ってなきゃあんなことは出来ん。微妙に何様や感があって、重大な何かがあれば人にスマホのカメラ向けるのも、マウンティングっぽくて嫌だった。
スマホのカメラ向けるのは、カメラ向けられれば真実を話すと思いたい主人公の願望か。ただカメラ向けられても真実を話すとは限らないことを主人公は重々承知なでの、ラスト自分にカメラ向けた主人公の独白は、真実ではない話になるのか、それとも自分だけは真実をカメラに向かって話すのか、どちらにせよそれぞれの人物から観た真実があるので、真実とはとなるといういうのと、全員不幸みたいな暗黒な終わり方で、シリアスな顔をキメて劇場を後にすることになる映画だった。
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