ワンコ

ぶあいそうな手紙のワンコのレビュー・感想・評価

ぶあいそうな手紙(2019年製作の映画)
4.2
【アンサンブル】

この作品には、
老いたエルネストと若いビアを中心に、さまざまな対比が織り込まれている。

手書きの手紙と、タイプライターの手紙、

形式に拘った表現と、率直な言葉遣い、

スマホの動画のどこかぎこちない話し方と、語りかけるような口調、

視力の衰えたエルネストと、聴力の衰えたハビエル、

長年想い続けたのに気持ちを押さえ込もうとするエルネストと、常に誰かを求めてしまうビア。

そして、途中の場面。
夜の街で詩を大声で交わし合う若者達を見ると、どこか普通と異なるように感じられて、これも対比のようなものではないかと思ったりする。

しかし、こうして語られる対比の物語が絶妙に絡み合って、まるで調和してアンサンブルのように感じ始める。

そう、対比とは言っても対立するものではないのだ。

僕達は、いつの間にか、古いとか新しいとか、あっちとこっちとか、分けて考えることに慣れすぎているのではないか。

どこかに壁を作ってはいないか。

エルネストがお金を取られるのを覚悟でやったことと、ビアが返金する行為。
そして、ここから、二人の気持ちはお互いに向き合い始める。

最後、エルネストは自分の気持ちに素直に従おうと思い立ち旅立つ。

ビアは誰かに依存することなくやっていこうと決心をする。

この旅立ちで、この映画の物語はいったん終わりになるが、また、別に奏でられる物語が続くのだと、多くの人に思わせる。

一歩踏み出す素敵なストーリーだと思う。
ワンコ

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