都部

アントマン&ワスプ:クアントマニアの都部のレビュー・感想・評価

3.3
アントマンシリーズで言及されてきた量子世界の実態と真相に迫る物語として幾ばくかの満足感を観客に与える物語ではあるが、シリーズとしての一貫した独自性を欠いている印象は拭えず、フェーズ5の始まりを告げる物語として及第点を叩き出している一方で単独シリーズの続編としての物足りなさを端々に露見させる一作となっている。

まず本作の魅力はスペースオペラめいた量子世界の様々な住民達のビジュアルにあり、物語に関与しない背景の中に存在する生活感や独自の生態系を受けて取れる住民の数々は"異世界"としての量子世界の舞台設計に一躍買っている。また心境の安定と地頭の良さを備えたアントマン一家の挙動は無駄な逡巡を挟まず、テンポよく困難と解決が用意される話運びは端的に見心地が良い。それは公開前より危惧されていた一作品としての情報量の多さによるカーンのドラマとアントマンのドラマの混合を若干食い止めているが、本作を通しての内心に関与する各キャラクターのドラマの尺はそれでも不十分であるのはたしかである。

本シリーズの魅力は縮小と拡大という能力を活かした日常を非日常の画に変換することで、小規模な事件に特有の魅力を持たせる手つきであるが、サイズ感を曖昧にする量子世界においてその魅力は完全に失われている。ジャイアントマンの活躍は豪快だが、本作特有の愉快なショットに恵まれず、ただ巨大感を弄んだだけの戦闘シーンは物足りない。

愉快なショットという点では、物語中盤の可能性の分裂が挙げられる。複数の世界線のスコット・ラングが巨大な装置に働き掛ける絵面は、本シリーズのマスコット的な立ち位置の蟻を思わせ、娘であるキャシーを通してバラバラの可能性が団結するという構図はシンプルに良かった。

この小さき者としてのアントマンのカーンとの対立は、冒頭の前振りから圧政者であるカーンに対する無視された市井の者たちの反乱という構図として置かれ、シリーズを通したボスと対峙する分不相応な役目を担うアントマンという構図にも自覚的であるように思えた。

また準ヴィランのモードックの存在感は印象的だった。
その出自はユーモアと悲壮さを備えたもので、スクリーン上にちらちらと現れる度に強烈な存在感を放つ絵面を成立させるものとして納得が出来る。作品の言及の際に言われていた セカンドチャンスを担うキャラクターが正にこの男で、役回りとして最も面白かったのは彼である。

カーンの存在感も文句無しであったが、思ったより短絡的でカリスマ性を感じるに及ばないキャラクターの造形であるように感じた。キャラクターの性質上、次があることが脅威のキャラクターなのでそういう意味で本作にちょうど良い振る舞いと思えば…………。

そんな感じで面白いには面白かったが、大衆エンタメとしてほどほどの完成度というのが適切な評価の内容で、スコット・ラングの小市民的なキャラクター性に相応の味わいが良くも悪くも作品全体に漂っていたと言える。
都部

都部