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アントマン&ワスプ:クアントマニアのskのレビュー・感想・評価

4.0
ようやく観れた。結論としては、フェーズ4以降の多くの作品同様、期待を大きく上回るものではなかった。コンテンツ自体をレビューする前にまず、この作品がシリーズ全体のコンテキストにおいてどのような意味合いを持つかから整理する。

本作はフェーズ5の開幕作品であり、またマルチバースサーガ(フェーズ4〜6)のラスボスであるカーンが(映画において)初登場する回であるため、MCUファンとして非常に重要な作品であると捉え期待していた。これを踏まえ、作品の内容を振り返ってみる。

まず良かった点が2つ。
まず言及したいのは「量子世界」という馴染み無い世界への導入の美しさである。ここでいう美しさとは量子世界の壮大な描写もさることながら、これまでの世界観との対比の妙を指す。物理的大きさをn→∞にまで拡張しようとした従前の流れに逆らうような形で、n→0(寧ろ-∞?)にまで圧縮した結果その先にもまた異なる形態の「宇宙」が存在するという、逆説的にMCU世界のオーダーを拡張しているのは見事。
さらに、カーンとスコットもまた対比されていたのも構成上綺麗であった。個として強い目的意識を持つあまり、自らのバリアント(別の時間軸にいるもう一人の自分)と衝突し破滅するカーン。それに対しスコットは個としては全く目的意識を持っていない(これは最初と最後の語り部分から容易に推察できる)が、一方で娘を守るという社会的目的意識のために自らのバリアントと協働することができる。これこそまさにアリのようであり、今までで一番「アントマン」という名前が腑に落ちたような気がする。

一方で受け入れにくい点も2つ。
まずは多くの方も感じているであろうが、話の難解さである。MCUではこれまで様々な既成概念の拡張を試みてきたと解釈している。初めは人間の能力の拡張であり、そこから物理的距離の拡張、世界線の拡張へと広がり、本作ではついに時間軸の拡張に本格的にメスが入った。しかし蓋を開けてみると内容は複雑怪奇であり、「あれこれ今何やってるんだっけ?」的な置いてけぼりタイムが少なからず存在するためなかなか没入できない(これは本作に限ったことではないが)。風呂敷はこれ以上ないくらい広がったが、フェーズ6までにこれを綺麗に畳むことはできるのだろうか。
もう一つが、フェーズ4から露骨に展開されている表層的なポリコレである。もちろん多様性の尊重という大前提には賛同するが、僕はMCUに手に汗握るアクションも求めているのだ。格好良いバトルを期待しているのだ。そんな中で、戦闘キャラでもない老婆や女子高生が不自然に活躍するアクションシーン見せられるのは正直苦痛でしかない。ラブアンドサンダーの時の子供達の謎覚醒戦闘シーンを観たときのあの不快さを思い出した。MCU(というか西洋社会)が目指す「多様性」ってそういうことなんすかね。

フェーズ4以降で面白かった作品は正直シャンチーとスパイダーマンくらいで、あとは期待を下回るか、あるいはちょうど期待通りのものばかりであった。この作品もちょうど期待通りであり、予想を大きく超えることはなかった。シリーズ全体を通して失速感が否めないが、ここから挽回できるのか。挽回してもらわないと困る。
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