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エルヴィスのnaoのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
5.0
冒頭から心掴まれる。派手に装飾の効いた60年代テイストのロゴから2時間39分、まるでジェットコースターに乗ったかのようにあっという間に過ぎていく。とにかく目まぐるしくて、圧倒的な映画だった。

「ロックの王様」と呼ばれ、ロックを生み、20世紀のアイコン的存在となったスター、エルヴィス•プレスリーの伝記映画。
オースティン•バトラーによる文字通り体当たりな演技が素晴らしかった。彼はエルヴィスの声の高さやアクセントを再現するために、2年をかけたという。それは短いようで尋常ではない長さだ。何しろ2年間他人になりきる訳だから。しかし彼はエルヴィスとの共通点が多かったこと、娘リサ•マリーや妻プリシラも映画を観るということから、例え午前1時に就寝したとしても、毎朝早起きをしていたという。しかも「辛い」という気持ちではなく、「誇らしい」という思いで毎日いたというから驚いた。凄いことだと思う。2年あれば人は変われる、ということを証明してくれた。
彼は劇中、歌も踊りも、全部吹き替えなしで演じている。豪快かつ繊細、もはや本物のロックンローラーだった。

成功には代償が伴い、光あるところには影がある。描き方としては最近の『ボヘミアン•ラプソディ』と比較して真新しいところはない。しかし劇中で彼の演技、そしてエルヴィスの名曲に心を掴まれ、彼の死から45年余りが経過した今、ファンになってしまった観客にとっては、十分に心動かされる展開が待ち受ける。

特に印象的なのは、予告編でも使用されていた”Trouble”を歌うシーン。オースティン•バトラー演じるエルヴィス•プレスリーが「誰に何と言われようと、自分の心に従え。」と歌い出す。「本物のエルヴィスを見せてやる!」これが物凄く格好良い!数キロ先では政治家が演説をしていて、それへの皮肉でもあった。

本編はトム•ハンクス演じるトム•パーカーの語りで進行していく。彼は狡猾なマネージャーであり、自らの利益のためには人を利用することも厭わない。自分で見出し、見込みをかけた者には手厚いサポートをするが、一旦見切りをつけた者には驚くほどの冷淡さを見せる。こんなことビジネスでは当たり前だ、と思う人もいるかもしれない。しかし彼の手口は残酷だった。トム•ハンクスの悪役が新鮮。しかし悪役とも言い切れぬところに考えさせられる。

本当に完璧な映画。オースティン•バトラーは絶対にアカデミー賞を受賞すると思う。

私はエルヴィス世代ではなかったが、改めて彼の功績の偉大さを実感した。彼と同じ時代を生きていなかったことを後悔したほどだ。本当に本当に最高で完璧な映画だった。

“While I can stand, while I can walk. While I can dream, please let my dream come true.”

映画を観終わったとき、はじめてこの歌詞の意味が分かった。深かった。
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