ちゃんゆい

tick, tick...BOOM!:チック、チック…ブーン!のちゃんゆいのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

ジョナサン・ラーソンの「RENT」が作られるまでの物語。

ミュージカル作家の夢を諦めきれず、数日後に20代を終えるジョナサンの焦りと葛藤の日々を描く。

この制作の過程自体が「TickTickBOOM」のストーリーなのかは定かじゃないけど、ジョナサンがステージでミュージカルを披露する舞台設定で回想的にシーンが展開していく。

自分の才能を活かせ、日銭を簡単に稼ぐことができる消費者モニターの仕事に「もしかしたらこれで生きていけばいいんじゃないか?」と揺らぐシーンがリアルだった。
自分の夢が芽吹かずもがく日々は、もっと楽に生きられる選択が邪魔をする。
もっと楽に、恐怖から解放される生き方もあると知っている。それでも、「この道じゃないと自分が息をしている感覚がない」と直感が訴える。
そんな言葉たちを抑揚のあまりない音に乗せて、揺れる心情が音楽になっていた。
それがミュージカルだと感じた。

「身近なものを作品にしなさい」という助言は、とても理にかなっている。
身近な問題は万人の心に共感を促しやすい。移入しやすい。
ミュージカルとは、心の揺れ動きを言葉にし、それがまとう周りの空気を音に乗せて拡張させる芸術だと思う。
だから、身近な問題で起こる心の動きを作品にするだけで十分なんだと思う。

作中の試聴会で流れる楽曲は、恋人と一緒にいられない「彼の身近なリアル」をそのまま落とし込んでいた。それを表現するように、実際の恋人の姿と街が映る。

恋人との別れが辛かった。
互いを思いやると同時に、自分を裏切らないことはとても難しい。
二人には、相談が必要だった。
二人の関係について、私はあなたのことをこれだけ思ってるよ。私自身については、これがしたい。さて、二人の関係はどうしていこうか、一緒に考えることが必要だった。
彼らの決断には、30代というどうしても意識してしまうタイムリミットが邪魔をした。多分これは時代の風潮もある。

夢を追う人が抱える焦りと情熱は「恐怖、愛、時間」というキーワードとして今作で何度も出てきた。
痛いほど共感。

ミュージカルといえば派手な演出で現実をフルに拡張するイメージがあった。
けれど、今作は時計の針の音を聞かせるような、心情の微細な揺れ動きを体感させる繊細なミュージカルだった。