SANKOU

バビロンのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

バビロン(2021年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

個人的にはとても面白かったが、まるで三時間の悪夢を観ているような作品でもあった。
もっとも華やかに見える銀幕の裏側では悪夢のような日常が繰り返されて来たのかもしれないが。特に映画という新しく画期的な娯楽が生まれたばかりのこの時代は。
初めてスクリーンを観て衝撃を受け、スターになることを夢見て映画の世界に飛び込んだ人たちは今よりもずっと多かったのだろう。
そして夢見た銀幕の世界で人生を狂わされ、失望した者たちも。
冒頭のまるでエミール・クストリッツァの作品を観ているような狂喜に満ちた饗宴の場面が印象的だ。
ボルテージが高ければ高いほど、その後に待ち受けている悲惨な展開が予想される。
サイレント映画のスターであるジャック、スターに憧れてロスにやって来たネリー、そしてそのネリーに一目惚れしたプロデューサー志望のマニー。
それぞれに銀幕の世界で成功を掴むが、落ちぶれるのもあっという間だった。
時代がサイレントからトーキーへと移行すると、ネリーは発声の悪さから次第に役が回って来なくなる。
彼女の場合はドラッグ依存と素行の悪さという問題もあるのだが。
そして一時代を築いたジャックもやがて時代遅れの存在となる。
マニーは成功を掴みかけるが、惚れた男の弱さか、ネリーに振り回された挙げ句、彼女を捨て切れずにどん底へと落ちてしまう。
一度成功を手にした者は、なかなかその栄誉を手放すことが出来ない。
それぞれ夢の舞台から落ちぶれていく様は三者三様だが、スターなど使い捨てで代わりなどいくらでも現れるのだという厳しい現実を思い知らされる。
悲惨で狂気に満ちた作品だが、それでもやっぱり映画は面白いという輝きを放つ作品でもある。
特に撮影シーンが素晴らしい。
ネリーが初めてカメラの前に立つシーンも素敵だったが、時代がトーキーに移り、撮影現場で監督とネリーと録音係が揉めに揉めるシーンも、ひたすらNGを繰り返すだけなのだが目が放せなくなる。
そして撮影現場では信じられないことに死人が出る。
今のように安全面に配慮していない時代だったとはいえ、一本の映画を完成させるためになりふり構わない姿はやはり異常だ。
そしてこの時代、映画は見世物であり、芸術として昇華していくのは後の時代になってからなのだとも思った。
その中でも輝きを放つ名作は生まれる。
厳しい現実を描きながらも、作り手の映画への愛が伝わってくる作品で、ラストの様々な名作のワンシーンが映し出される瞬間は心が踊った。
SANKOU

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