おいなり

どうにかなる日々のおいなりのレビュー・感想・評価

どうにかなる日々(2020年製作の映画)
3.6
志村貴子の短編集の一部をそのまま映画化。
「そのまま」というのは、ほぼ原作に忠実にという意味です。

透明感のある線の細い絵柄は原作に寄せつつ、陰影を抑えてややリアルタッチな画面に。風景画のようなざらっとした質感の背景や、極力抑揚を抑えた本職声優の演技は、それぞれ独自の解釈ながら、原作の静かな空気感を壊さず、世界観を拡張するような形で映像化されている。あえて違和感を前面に出すことでそれを作品の色としたアニメ版・放浪息子とは真逆の発想だなと思った。

ただ、一時間少々の尺しかないのにどの場面も描写が緻密で、それぞれの完成度は高いのだけれど、純粋な物量としては物足りなさを感じる。僕は原作を読んでいるので、なぜこの話が映像化されたのかという選定にある程度理解は示せるけれど(話のわかりやすさはもちろん、映倫的な意味でも)、初見の人が見てこれだけで楽しめるのか?という疑問は最後に残ってしまった。
それぞれの登場人物が緩い結び目で繋がる世界観を舞台に、意味ありげなような、なんでもないような、軽薄なのにどことなく文学的な余韻が残る読後感の良さが、このこじんまりとした映画で果たして伝わるのかな……と心配になった。
逆に、この4つのショートストーリーで「好き!」と思えた人であれば、原作を読むことでさらに何倍も幸福感を味わえることは保証します。

ありきたりな日常の中の、ちょっと変わった人々。でも結局のところ、変であるということは普通であることと表裏一体でもあるのだ。だから、自分とはぜんぜん違う種類の人生を歩む彼らを見て、なんとなく親近感を感じるのではないかな。
いくつもの「それ、なんかわかる!」が詰め込まれたオムニバス。世の中の生きづらさを感じる人々に寄り添うような原作の持ち味を活かした、良くも悪くも原作ありきの映画だなというのが感想です。
個人的にはいつか他の話も映像化してみてほしい。

クリープハイプの歌詞はいつ聴いてもエモい。サブカル男女といえばもうワンセットでクリープハイプですね。
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