きゅうげん

アンテベラムのきゅうげんのネタバレレビュー・内容・結末

アンテベラム(2020年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

The past is never dead. It's not even past……と、寓意的に過去と今を行き来するのかと思いきや……、最悪のウエストワールドかい!

凄惨な南部プランテーション農業とか現代社会の些細な嫌なところとか、細かな演出からセリフの端々まで人種・階級・性に関する差別や欺瞞が盛り込まれてます。
上院議員のまさしく覇権的男性性なあり方や、ダニエルくんのインセル感など絶妙。

ですが、その現状打破が暴力による解決でいいのでしょうか? 
クライマックスで北軍の軍服を身にまとい戦場を駆ける主人公の姿には、問題の矮小化や定型化を覚えてしまい、後腐れないカタルシスを得ることができませんでした。
もちろん映画内の酷い奴らは万死に値しますが、建設的な姿勢で後片付けにあたる主人公の後日談なんかを、ミッドクレジットにせめて入れてほしかったです。
あと単純に脱出劇の段取りが悪いし。

それと素朴な疑問なのですが、白人至上主義者が黒人差別を突き詰めて、というか飛び越えて「奴隷制時代をもう一度!」と先鋭的な発想に至るのは現実的なのでしょうか?
この映画内の謎組織と現在の米国内のオルタナ右翼を照らし合わせた時、あまりにも説得力がなく、問題の現実味を希釈してしまってるように思います。
今の社会問題の歪さを描くため、作品そのものもどこか歪にならざるを得なかったような、とっても惜しい映画です。

日本で時々やってる、関ヶ原の合戦再現イベントくらいイデオロギー対立も何もないほうが、平和なんでしょうね。