都部

アンテベラムの都部のレビュー・感想・評価

アンテベラム(2020年製作の映画)
3.7
南北戦争最中のアメリカ南部の綿花畑で黒人奴隷として重労働を強いられているエデン。ある悲劇に見舞われた彼女は、それを機に奴隷仲間と脱走を企てる。一方、社会学者で人気作家であるヴェロニカは招かれたニューオーリンズで見事なスピーチを披露して喝采を浴び、友人たちとディナーを楽しんでいた。
その折、順風満帆だった彼女の日常に予期せぬ変化が生じ始める…。

語り方が秀逸な脚本が織り成す社会派スリラーとしては上等というか、本作の真相は個人的に馴染み深い奇想なミステリのそれに近く、見事に良いサッカーパンチを貰った作品でした。
その驚くべき『真相』の為に、物語を豪気に整地して最後まで押し通す手付きなんか正にそうですね。

本作の『謎』として配置される時代と立場が異なる二人の黒人女性の運命がどう交差するのかという点は物語の推進力として大きく、前情報を得ずに鑑賞していた身としては中盤の視点の変換を齎す『音』にやられ、そこからラストまではサプライズ続きで非常に面白い。
反面 序盤〜中盤の支配下に置かれた黒人奴隷の描写は類型的の域を出ることなく、物語の真相とテーマを思えばその『類型』こそが必要不可欠な描写であると理解していても、90分強の映画としてはやや長く感じた点は否めません。

また有色人種に対する差別意識が緩和されたように思える現代社会に対する強い警鐘として本作はこの驚くべき物語を掲示しますが、その割にこの真相部分の仕掛けに物語が寄りすぎで、社会的な風潮に対するアンチテーゼとしては弱く感じたかなと。全体を通しての終盤の展開はカット割の勝利で、滑稽にも痛快にも転びかねない物語の結末をかろうじて後者に傾けた小屋でのシークエンスは、観客の目を奪うには充分以上の印象的な物に成っています。

この手の壮大な一つの仕掛けの為に構成される全ての要素が配置された作品というのは嫌いではないので、この『してやられた』感を余韻として噛み締めようと思います。

過去は死なない、過ぎ去りさえしないのだ。
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