舞い散る・飛び散るものを撮ってきた飯塚健には格好の題材であると同時に、手の映画にもなっている。怒りに震える握り拳、添えられる土屋太鳳の手、恐怖に震えるスキーヤーたちの手…。
中でも印象的なのは遠慮しがちに振られる濱津隆之の手で、その後もエレベーターを遮ったり、大一番で黄色いグローブをつけた手をフレームに収めたりするのである。まぁしかし、手は演出の手柄としても、濱津隆之がシンプルに素晴らしくて感動してしまう。こんなに良い役者だったんだと正直驚いてしまった。
一方、オリンピックが戦争の延長線上にあることに対するスタンスには疑念を抱いてしまう。物語のクライマックスが擬似的な特攻を受け入れるか否かになるんだけど、おそらく撮り手はそれに自覚的。でももうそのまま撮るしかないよねという諦念なのか、あるいは、むしろストレートにやるから分かってね!ということなのか、いずれにせよ悪手に思える。
そして、結果的にプロパガンダ映画みたいな盛り上がりを見せる不気味なシーンが完成している。しかし、さらに恐ろしいのは、役者の一部がそれに無自覚に見えることだ。その際たる人物は、幸いにも役者としての活動は少ないようだが…。とにかく、飯塚健は泣ける映画を撮れちゃう人なので、プロパガンダを撮らせたらヤバい。それだけは間違いない。