somaddesign

さよならテレビのsomaddesignのレビュー・感想・評価

さよならテレビ(2019年製作の映画)
5.0
見た人の数だけ真実があるハズ

:::::::::::

「ヤクザと憲法」(2016年)や「人生フルーツ」(2017年)など、テレビ発のドキュメンタリー映画で異例の快進撃をつづける東海テレビドキュメンタリーの最新作。自社の報道フロアにカメラを向け、二年近くを費やし、テレビ報道のリアルを暴く。テレビ放映後にコピーされた海賊版DVDが出回るなど反響の大きかった異色作。

:::::::::::

めちゃめちゃ面白かった!
傑作揃いの東海テレビドキュメンタリーシリーズの中でも群を抜いて鋭く深くえぐってくる。単純に映画作品としても十二分に楽しめた!

普段取材する側が取材されることに激しい拒否反応を起こして、「撮るな!」「取材対象に事前に十分な許可をとれ」とか言うの「どのクチ」主張がまず面白い。

テレビの裏側を暴くとはいえ、全部に密着できるわけはなく、報道部に焦点絞ってつぶさに仕事ぶりを見せてくれるのありがたい。「チャンネルはそのまま!」を見ていておかげで、事前に仕事内容をおぼろげに掴んでたのも良かったかも。
なんだかもう密着の度合いが激しくて、明け透けに職場風景を撮って出し。おっぴろげスタイルっちゅーか、パワハラまがいに部下への叱責や、連絡先が書かれた掲示物が無修正に上映されてて、部外者ながら見ていてハラハラしちゃった。

「働き方改革」を扱うニュースを編集するテレビマンが連日残業を余儀なくされていたり、非正規雇用の不安定な雇用条件のスタッフに支えらているテレビの現状が見えてくる。そらもう、短期的な成果を求めてテレビ的な「成立」だけを重視しちゃう気持ちもわかる。テレビが過剰なセンセーションや単純化した構造に飛びつく背景がすけて見えた気分。もしくは作り手たちが自身の抱える闇に気づけないっていう深淵を覗いてる気もする。

報道機関とはいえ民間企業である以上収益が大事で、営業絡みの「Z(ぜひとも)ネタ」の存在とか、それを担当する一見昼行灯みたいな契約社員の記者が実は一番青臭く報道の使命に燃え、現状を憂いているか。

「弱者の味方」と言いながら、一番身近にいる弱者を切り捨てるシーンとか、「権力の監視」を標榜しながら自身の権力・影響力には無頓着。権力を監視するハズのマスコミそれ自身が、自分たちの権力や既得権益の死守に汲々として、自らモットーから遠ざかってく姿が痛い。自分たちでも問題点は分かっちゃいるけど、日々の飯を遠ざけてでも清廉潔白を求める人はいない。貧して鈍する小市民の集合体としての組織の姿が身につまされる。


作り手のリテラシーや問題意識の在り方にメスを入れることで、受け手側のリテラシーも試される。そして本作自体も作為の闇に堕ちる。
見る側が期待するような分かりやすい「テレビの闇」ってのが実は存在しなくて、サラリーマンらしい保身だったり、視聴者の求める『分かり易さ』を優先した番組作りの結果だったりする。刺激的な言葉を選択するよりは穏当で他者も使ってる言葉を使う横並び主義……。逆に不相応に過激な言葉で煽って、興味を引くネット記事見たいな話法も。熱血記者が正義を求めて取材を進めているようで、実は結論ありきで取材してる危うさとか、見る人によって『闇』の正体は様々だろう。


東海テレビドキュメンタリーはソフト化も配信もされず、上映期間を除けばどこかで上映会が開かれるのを待つばかり。配信すればいいのに…


(以下ややオチバレ)
主観で切り取られ、作為的に演出された映像ドキュメンタリーを真実とするなら、それが暴くものって何? 現実って何だよ!? って怒りの問いかけが秀逸だし、「ユージュアル・サスペクツ」のクライマックスに似たカタルシスがあった! 信用できない語り手型サスペンス風ドキュメンタリーとして大傑作。

23本目
somaddesign

somaddesign