浪川リオン

鹿の王 ユナと約束の旅の浪川リオンのレビュー・感想・評価

鹿の王 ユナと約束の旅(2020年製作の映画)
4.5
原作未読の友人と鑑賞。
私自身は何度も読み返してる原作ファン。つまり図らずして原作未読の人でも今作を楽しめるかという格好の参考例となった。

見終えた後、友人が感想として「ハイ・ファンタジーの世界観を丁寧に伝えようとしてしたのが伝わった」と言ってたので原作付きの映画としてはもう十分な出来なのだと思う。

思うのだけど… 原作が好き過ぎるあまりに「もっと抜け出せないほどの鹿の王ワールドの魅力を伝えて欲しかった」とか凄腕アニメーターの顔ぶれが揃っている割にはアクションはかなり地に足のついた表現をするのでもう少しハジケちゃっても良かったのではとか……
いやそもそもやはり上下2作に分けてそういった派手なシーンを入れられる時間配分の「ゆとり」があったらなとか、思っても仕方のない事ばかり思ってしまっていた。
堤城平と戦ってる時の丹波文七みたいに。

あと原作で死ぬほど好きな場面が情報削減の為に無くなってたのも残念だったり、ホッサルと対比させる為だろうけどセルフイメージ内のヴァンよりかなりゴツく描かれてるのも仕方ないのだけどちょっと気にはなった。
しばらく見てると好きになったけど。

「原作が好きで〜」というのを免罪符のように振りかざしてしまい、あら探しをするように見てしまっていたかもしれないが、良いところも数多くあったはずで、そもそもハードカバーで2冊、文庫本にして4冊に及ぶ長大で固有名詞等の情報量の多い物語をキッチリ破綻なく2時間の映画に収めている事がまず神業と言うべき素晴らしい脚本家の仕事だし、表現として難しかったはずの『裏返り』の感覚や生き物と『繋がる』表現等、思い返して見ても本当に分かりやすく描かれていたと思う。

それと、この物語には人物の相関図やセリフ等から読み取れる隠された大事なテーマが含まれてるんだけど、ちゃんと最後の短いセリフからそのテーマまで辿りつけるようになってるのも感動した。

人物の動きや表情も本当に美しく、素晴らしい映画でした。観られて本当に良かった。正直に言うと冒頭タイトルが出た瞬間が一番感動しました笑

制作スタッフの方、素晴らしい作品をありがとうございました。満点にしなかったのは3クール分使っての地上波TV版『鹿の王』シリーズ企画発動への期待を込めてです。いつまでも楽しみに待っております。