類まれなる武術の腕を持ちながらも、お人好しな性格の持ち主の浪人 三沢伊兵衛は妻 たよ と共に旅をしていた。大雨で足止めをくらい、立ち寄った安宿で様々な人々と交流する。そんな折、若侍の果し合いを仲裁した伊兵衛はその腕を見込まれて、藩主である永井和泉守重明に城に招待される。
脚本執筆中に亡くなった黒澤明監督に捧げられた作品。助監督として執筆の手伝いをしていた小泉堯史が引き継ぎ、完成させた。黒澤明の通夜の際に、息子の黒澤久雄が小泉に監督をしてもらいたい と呼びかけたそうです。
スタッフも黒澤組が名を連ねていて、プロデューサーには息子 黒澤久雄、衣装には娘の黒澤和子が参加しています。
めちゃくちゃ強いけど、めちゃくちゃ優しい武士。めちゃくちゃ優しいが故に図らずしも色んな人から恨みを買ってしまったりして、中々仕官できずにいた主人公が、ひょんなことからとある殿様に気に入られて、仕官されそうになります。その仕官がどうなるか までを描いた作品となっており、ストーリー展開としてはけっこう起伏がないものとなっています。さらに映像的にも優しいテイストのものになっているため、全体的に非常にゆったりとした雰囲気が漂っていました。
キャスト陣も黒澤組がちょくちょくいますが、藩主役には三船敏郎の息子 三船史郎が抜擢されています。この演技がちょっと棒読みのように思いました。父 敏郎のような荒々しさがありましたが、それも作り物感が否めなかったです。その藩主の小姓役には黒澤明と黒澤作品にも多数出演している加東大介を祖父に持つ加藤隆之。めちゃくちゃチョイ役ではありましたが、こちらも映画デビュー作とは言え残念な演技でした。やはり偉大な人を身内に持っているからと言って、その業界で花咲く訳じゃないということですね。
最後の宮崎美子の「何をしたかではなく、何のためにしたか」という台詞が全部持っていってしまったような感覚です。ゆったりした雰囲気だったから余計に刺さるものがあったのかもしれません。
ストーリー展開は起伏がなく、面白味はそこまで感じられませんでしたが、短くまとめられており、優しく沁みる作品ではありました。叶わなかったですが、黒澤明が監督したらどうなっていたのか、観てみたかったなぁと思いました。