きよぼん

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実のきよぼんのレビュー・感想・評価

4.0
映画「もっともあぶない刑事」の本多警備局長役として出演していた芥正彦。短い出演シーンながら、ただものではない雰囲気が印象に残ってる方も多いのではないでしょうか。あぶ刑事ファンの自分がいうのもなんですが、なんでこんなチャライ映画に…と、今となっては思ってしまいますけども。

「もっともあぶない刑事」の劇中の本多のセリフ「わたしも若い頃は血の気の多いほうでね!」。演じてるご本人を表してるかのように、本作では東大全共闘側の論客として、若かりし頃の芥正彦が三島由紀夫に議論を挑みます。

もちろん芥正彦だけではなくて、東大全共闘側で三島を論破せんと待ち受けるはなんと1000人!そこにたった一人で乗り込まんとする三島由紀夫という、なんともヒロイックな展開。でも映画としてはフェアであり、三島をヒーローにしたり、東大全共闘を悪者にしてもいません。そこはバランスが取れています。

しかしながら、この映画を観ることで三島由紀夫という人間に魅了されてしまうのは間違いないことでしょう。

挑発に乗らない、小さな揚げ足取りをしない、終始笑顔、攻撃をせずユーモアを交えて議論する。発する言葉の理路整然さもさることながら、その立ち振る舞いに惹きつけられてしまうのです。

本作の劇中のインタビューで平野啓一朗の「社会を変えていくのは言葉である」という発言。この発言自体は否定しませんが、本作を観た後では、それって半分くらいしか当たってないよなあ、と思ったりするわけです。

つまりは、言葉っていうのは、誰が、どんな立ち振る舞いで、どう述べたかによって威力や説得力が全く違う。文章で三島由紀夫に触れるのと、この映画で「動いてる三島由紀夫」を観たのでは、受ける印象がちがってきてもおかしくない。

おそらく、「社会を変えていくのは言葉である」というのが、この作品のテーマなのでしょう。しかしながら映画として三島由紀夫を映し出した本作は、逆に図らずも「言葉以外のコミュニケーション」の威力、人間力みたいなものを映してるように思うのです。
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