菩薩

夢のアンデスの菩薩のレビュー・感想・評価

夢のアンデス(2019年製作の映画)
3.5
誰も『夢のアンデス』を観たンデスと書かないのは大人の嗜みだろうが、本編前の監督ご挨拶で「日本とチリは地理的に…」とかましていたので、むしろ書いてやるのが筋ってのものだろう(そんなことは無いだろう)。ってのはさておき、グスマン作品の中ではかなりマイルドな仕上がりか…?と観ていたが、中盤以降は流石に暴力的なフッテージが挿入されていく。古から今日に至るまで全ての歴史を見つめて来たアンデス山脈、皆口々に「それは壁である」と守られ、また隔てられた来た歴史を振り返っていく。グスマンにとっての「祖国」とはやはりアジェンデ存命時迄の事を差し、それ以降の失われた故郷に対する愛着が物寂しく綴られていく。クーデターによるピノチェト独裁政権の樹立、新自由主義導入より拡大していく貧富の差、音を立てて崩れゆく国家の様を目撃した悲しみと、今も尚埋まらぬヒビをひたすらに嘆く。それでもチリに留まった者への賞賛と、逃れるしかなかった後悔を俄かに滲ませながら、チリの闘いは未だ終わらずと自らをも鼓舞する。グスマンが己を許し、国家が辿ってきた負の歴史を受け入れそこに戻れる日は来るのか、そんな事をどうしても思ってしまうが、若い世代に受け継がれる闘う意志と言うものが確かな希望を醸し出す。革命、未だ成らず。
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