スージー

耳をすませばのスージーのレビュー・感想・評価

耳をすませば(2020年製作の映画)
4.8


わたし個人の意見としては、十分に原作である柊あおいさんの漫画とジブリのアニメ双方に対するリスペクトを感じられ、世界観を守った上で、見事に10年後の話をうまくまとめてくれていて、ああ、もう最高、最高、産後1年でようやっと映画館で映画を見れたのですが(マジ個人的な話)、最初がこの作品でよかった〜ありがと〜桃李〜好き〜!!!!!

雫の表情がコロコロ変わる様はジブリアニメではそのようには表現されていないので、他の人の感想を見る限り「雫はこんなじゃない」と思われがちだけど、原作ではまさに昭和〜平成初期の少女漫画の主人公という感じで安原琉那ちゃんの演技は最高にハマってた。「ジブリとセリフがちがう!」というのも、実は原作のセリフだったりもする。
その一方でほぼ全キャラクター、喋り方はジブリの声優陣に寄せていたのですごいなと思いました。特に高坂先生と夕子なんて、記憶の中で補正が入ってるかも知れないけど、まんまだった。

漫画およびアニメの実写、かつその後の話を描くという、一般的にはつまらなくなるであろう映画に対して、わたし自身あまり期待していなかったのですが。とてもよかった。ほんとうに。桃李贔屓でなく。いや贔屓はしてますけど。

本作は、チェリストになる夢を追いかけてイタリアに渡った聖司くんと、日本に残り小さな出版社で働きつつも物語を描き続けてモヤモヤしている雫の、夢と恋と、どうなっちゃうの〜な話なので、あらすじは想像に容易いと思います。なのでまあ見ていればオチもわかっちゃうんですけど、それがまたよい。ベタなくらいがよいですな。

モヤモヤな雫は聖司くんに会いにイタリアまで行くのですが、聖司くんのチェロに合わせて雫が歌うシーンが感動的。100回くらい見たい。桃李は指が長くてきれいなので、弦楽器を弾く役がほんとうにハマる。ああ、わたしもその弦になりたい。というのはさておき。悩んでいたはずの雫がすっきりした顔で歌っている姿がとにかく良い。プロとして技術ばかり気にしてつまらなくチェロを弾いていた聖司くんも、中学時代のふたりも、楽しそうに笑っていて、涙腺よわよわおばさんはとにかく涙が止まりませんでした。はあ最高。

詳細は端折りますが。杉村(も出てくる!大人になって!)が「将来どうなってるかはわからないけど、今どんな選択をしたかの積み重ねがこの先を決める」みたいなことを言って雫を励ますシーンがあり、これが印象的でした。
物語の後半で、結局 雫の夢もふたりの恋路もどうなるかわからないまま、聖司くんが爽やかに路上で演奏を始めるとどんどん人が集まってくる。これ、もうエンディングなのってくらい良いシーン。「あ、杉村が言う通りこの後はどうなるかはわからない(=観客が各々想像する)けど、ふたりが置かれた場所でそれぞれ楽しく頑張ることが大事なんだということを伝える映画!?こんなエンディングも良いな!」と思ったものの、物語はそこでは終わらず。その後はもう、想像の通りのハッピーエンドなんですけどね。けどね!けどね!?!?

ここからは完全にネタバレなんですけどね!?!?!?




10年前と同じように、ある日の明け方、聖司くんが雫を尋ねてくるんですよ。それで雫が自転車の後ろに乗るんですけど、あれ?雫乗り(横乗り)じゃない!? と思ったら回想シーンではちゃんと中学時代の雫は横乗りしてて、そういう細かな設定も本当にジブリを大切にしていて好き!と思いました。
で、中学時代の回想シーン(ジブリ作品でいうエンディング)は映画冒頭にもちょろちょろ出てきてたんですけど、あれ、聖司くんったら かの有名な「結婚してくれないか!」言わないなって思ってたんですよね、言わないはずですよね、もうね、涙が止まらないよね!?!?だってこれから言うんだもん!!!!!
ちなみに原作でも好きだと伝えただけで、結婚してくれは完全にジブリオリジナルなんですよね。だからこの映画でも中学時代は言わないんですよ。言わなかったからこそ、これから言うというのがわかる、もう見ているこっちはズキュンバキュンの呼吸困難。

10年の遠距離恋愛を続けて、いちばんの親友の夕子は杉村と結婚、自分は夢も叶えられず仕事もうまくいかず、イタリアまで彼に会いに行けば恋敵に「あんたの想いは単なる意地では?」と言われ、失意のまま帰国、夢も諦め恋愛もリセットするかと思った矢先、聖司くんからエアメールが届く。杉村は「夢を諦めんな」夕子は「雫がつらいなら諦めてもいいんじゃない?」と言うけれど、聖司くんは優しく「だけど俺は諦めて欲しくないな」と手紙に認めてくれた。聖司くんだけは他人事ではなく(もちろん杉村も夕子も適当なことを言っているわけではないが)、一緒に生きる相手として自分の希望を伝えてくれた。はあ〜そんなこと言われたら書くよね。もう一度ペンを握るよね。だって聖司くんが好きでいてくれた自分でいたいじゃない。そして書き上げた明け方に聖司くんが現れるんですよ。はあ、ベタベタのベタ。最高。奇跡だ。な、聖司。またいつかここに一緒に来ようと約束した場所で、10年越しのプロポーズ。これを泣かずに見られるだろうか。(無理)

そしてエンドロール。こちらもジブリリスペクトで、多摩川河川敷定点カメラの画。思えばジブリアニメのエンディングで夕子と杉村が歩いているのがファンにとってのキュン要素だったので、その恋もまたハッピーエンドを迎えるよという敬意の脚本、ほんと最高じゃん。(知らんけど)
この画に入る前に、河川敷を並んで歩く雫と聖司くんがベビーカーの赤ちゃんとすれちがうシーンがあるんだけど、そこでふたりが幸せそうに赤ちゃんを覗き込む。これがまた中学時代とはちがう、結婚のリアリティを演出してる気がしてめちゃよかった。

最後に、なんで聖司くんチェロ弾いてんの?バイオリン職人はどうした?(原作ではそもそも楽器弾いてないけどな?)については、わたしの考察ですが、バイオリン職人なら一人前になったら日本に帰ればいいので(知らんけど)、"遠距離"恋愛の終わりが比較的明確。だけど、演奏者を目指し、プロの演奏者になり、カルテットを組んで海外で活躍しているという設定にすることで、"遠距離"恋愛の終わりが曖昧になるから、これが雫のモヤモヤを助長させる良いスパイスになったのではないでしょうか。「とにかく10年待ってと言われて待った。彼はプロの奏者になったけど、わたしは、、夢も叶えられないまま、このまま彼を待ってていいの?」という雫のモヤモヤが物語の肝なので「10年経って一人前のバイオリン職人になって帰国してくれる聖司くん」でも「10年経ったのに一人前のバイオリン職人になれず帰国できない聖司くん(ちょいダサ)」でもダメで。「わたしとちがってちゃんと夢を叶えて、その次のステージを目指して遠い空の下頑張ってる聖司くんとの終わりの見えない遠距離恋愛がつらい」という状況を作り出すには、奏者になってもらうのが都合が良かったんだな、と。
バイオリン奏者でなくチェロだったのは、なぜだろうね、本作で「おじいちゃんと弾くのが楽しかった」と言っていて、ジブリ作品でおじいちゃんがチェロを弾いてるからチェロにした、と考えるのはちょっと無理矢理だけど。まあチェロは大きくて絵になるよね。桃李も高身長ですし。まあなんでもいいんですよ、楽器の種類なんて。

はあ、よかった。なにこの感想の熱量。久しぶりの映画館がよすぎて。ここまで読んでくださってありがとうございました。

あ、あと、最後に。(しつこい)
公衆電話から国際電話をかけた際に、テレフォンカードの度数がものすごいスピードで減っていくのが、なんか切なくてめちゃくちゃよかったです。。。
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