櫻イミト

タルテュッフの櫻イミトのレビュー・感想・評価

タルテュッフ(1925年製作の映画)
3.5
ムルナウ監督が17世紀の劇作家モリエールの戯曲「タルチュフ:あるいはペテン師」を映画化。脚本は「カリガリ博士」(1919)「サンライズ」(1927)のカール・マイヤー。撮影は「最後の人」(1924)「魔人ドラキュラ」(1931)のカール・フロイント。

遺産目当てに老人に取り入る家政婦がいた。これに気付いた老人の孫は家に映写機を持ち込み、二人の前で映画「タルチュフ-あるいはオルゴン氏とその親しい友人の物語」の上映を開始する。その内容は・・・タルチュフ(エミール・ヤニングス)という男を、聖職者と信じる裕福なオルゴンと、偽善者だと疑う妻の物語。。。

偽善者への注意喚起を促すブラック・コメディとして楽しめた。その実、教条的な宗教者に対する痛烈な批判も感じられた。

孫が第四の壁を破ってこちらに語りかけ、こちらに向かって映画内映画「タルチュフ」の上映を始める。非常に現代的な感覚の演出だが、本作の大半を占める「タルチュフ」は堂々たるドイツ表現主義。セルフパロディとまでは言わないが、同年ロシアでは「戦艦ポチョムキン」、ハリウッドでは三大喜劇王の全盛期と、急激に進化していた当時の映画業界の中で新しい試みを模索していたのかもしれない。

エミール・ヤニングスが翌年引き続き出演したムルナウ監督作「ファウスト」(1926)と演出のノリが近いように感じた。その締めくくりも、「ファウスト」は”愛”とのメッセージ、本作は”あなたの隣に座っている人の正体を知っていますか?”との問いかけ。ちなみに、最終字幕に思いを込めるバイブスは同年の「ストライキ」(1925)にも共通している。トーキーを直前に控えた時代の、魂の叫びの表現法として注目しておきたい。
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