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ミナリのSPNminacoのレビュー・感想・評価

ミナリ(2020年製作の映画)
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雄大なロケーションを背景にスケール大きな家族ドラマ…って「北の国から」みたいなのを想像すると全然違う。舞台は殆ど家やその周辺で、1シーンを除き空があまり映らない。肝心の農作業よりも家事やヒヨコ選別の仕事、カメラも俯瞰はなく地を這う視点、むしろ寄りの画が多くて閉塞感が息苦しい。つまりアメリカン・ドリームを抱く移民一家の奮闘記ではなく、家族の内面を描いた心理劇である。
「賢く、役に立つ」ことを使命として優先する父(ヒヨコと同じように選別してる)。そんな夫に嫌気が差しながら、他に誰も頼る相手のいない孤独な母。夫婦の亀裂に緩衝材として呼ばれた祖母。両親の喧嘩に心を痛める幼い姉弟、おねしょと死の影に悩まされる弟。根強い家父長制の抑圧が家庭を窮屈にしているのを感じる。父もおばあちゃんも息子ばかり気にかけて、放ったらかしにされてるお姉ちゃんが心配になった。
一家は3歩進んで2歩下がるような足取りで、役割はあっても役に立ってない。それぞれに求める幸せが噛み合っていない。孫にとっておばあちゃんらしくないおばあちゃんは、一つの役目(期待された仕事ではない)を終えるとやがて役に立たない存在に。残酷にも家庭は崩壊寸前だ。
独力で決断実行する父はアメリカナイズ精神に見えつつも、アメリカ社会の一員になろうとは思ってない(そして韓国社会にも馴染めなかったらしい)。英語を話せず韓国文化を土産として携えたおばあちゃんは、アメリカ文化にも貪欲だ。アメリカで育った子供達は家庭の外で異邦人扱いされる。主な言語は韓国語、必要に応じて英語。だが異文化の衝突でも融合でもなく、家と個々の中には2つの文化がマーブル模様のようにただ混在してる。それもまた一家の選択。
とはいえ、映画自体はとてもアメリカらしい。土と水と火、精霊と蛇といったモチーフを用いた古典的家族ドラマは、これがアイルランド移民でも成り立ちそうな(幅広く通じるような)物語構造がある。
農作業を手伝うポールは家族を見守る精霊の存在。おばあちゃんもまた別の精霊であり、同時に災いを象徴するのだが、ここでの蛇は守り神みたいな存在かもしれない。結局父が植えた作物でなく、皮肉にも彼が植えなかった=役立つと思わなかったそれが救いとなるのだ。枯れた水脈を捨て、ミナリが生い茂る水辺へと。父は家長の役割を離れ、フラットな共同体として家族は再生に向かう。
孤立した家長スティーヴン・ユァンは絵になる佇まい。か細いながら射るような視線のハン・イェリの横顔。息子デヴィッドくんがとてもイイ顔してて(小津『お早う』の弟くんみたい)見せ場をさらう愛らしさ。でもやはり、おばあちゃん演じるユン・ヨジョン劇場だった。こう言っちゃ失礼だけど、アメリカ映画でも舞台あらしですな…!オスカー助演賞獲れるといいな。
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