山下尚子

ミナリの山下尚子のネタバレレビュー・内容・結末

ミナリ(2020年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

家族について、お互いを"見る"ことに力点を置いた映画のように感じた。

随所でそっとドアから覗く子ども達の視線や、ラストのハルモニの視線が印象的だった。

モニカが夫に対しては"あなたは自分勝手"と言い、ハルモニに対しては"私が自分勝手なせいで…"と思っていることが、同じ家族の中にいてもそれぞれでメンバーに対する見方が違う、ひいては役割が違うことをうまく表していたように思う。

と思うと、ハルモニが家族の中で役割を持つまでが面白かった。
最初ハルモニが来たときは彼女に家族としての役割はなくて(名目上娘であるモニカのサポートで来たっぽかったけど、"お母さんがいても友達とは違うだろ?"というセリフでそれだけでは十分でないことが示されているような…)、子ども達にも馬鹿にされるけど、モニカが止めなかった体罰を止めようとしたことや、夜の内緒話(?)を経て、孫であるデビッドを(多分精神的に)支えるという役割を得たように思う。
そして娘夫婦の希望であった納屋を燃やしてしまったことで"まともに動けない祖母"という役割に絶望して去ろうとするも、子ども達に引き留められて自分が受け入れられていることを知って留まる、みたいな…?
お父さんが最後に"おばあちゃんのお手柄だ"と言うシーンで、それまでモニカや子ども達を通してハルモニと関係していたお父さんにとっても、ハルモニが家族としての役割を持ち始めたことがわかって、ハルモニを含んだ家族が新しく完成するまでの話だったのかなぁとも思った。

"見えない危険よりも見えている危険の方がいい"とハルモニが蛇を指して言っていたのは、もしかして家庭にも当てはまるかも…?

序盤で喧嘩する両親を見て子どもたちは怯えるけど、一応は子どもから距離を取っていた終盤の喧嘩の方が夫婦関係としてはもっと深刻だった。家庭の崩壊が目につかないときの方が危険ということか。

二人姉弟の幼い弟デビッドの視線で基本的に話が進むけど、見終わって考えてみるとその意味が結構大きかったように思う。

お姉ちゃんのアンの描かれ方が淡白な気がしたけど、デビッドの視点からの物語だと考えると、確かに子どもの頃は兄弟より親に意識が向いてた気がするなぁと思った。

後、アメリカ生まれのデビッドはアメリカ国籍を持っているはず。その彼の視点で話が進むことで、この物語は"アメリカ人"についての話であり、"アメリカがどう形作られてきたか"の話であると表しているんじゃないだろうか。安直かもしれないが、"そこにアジア系もいた"と 示していることが、この映画の意味を深めているように思う。

幼い少年の視点だからか、音響がとても鮮明で距離が近いように感じた。ヒヨコの声とか、食器のガチャガチャ音とか、小さいときはこんな風に聞こえてたな~と思った。

ハルモニがモニカに食べ物を持ってきてくれるシーンでは、留学先で実家から届いた段ボールを開けた時を思い出した…。
山下尚子

山下尚子