AYN

ミナリのAYNのネタバレレビュー・内容・結末

ミナリ(2020年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

喧嘩ばかりの夫婦と、変わり者のおばあちゃん。わたしが子どもの頃の風景に重ねて観た。
もう無理だ、限界だと言うかもしれないけど、あなた達はそうやって愛し合っているんだよと、伝えてあげたい。
最後は温かい気持ちで見終えることができた。
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アメリカの農村で成功を夢見る父親は、かつての開拓使のよう。
子ども達に成功した姿を見せたいと奮闘する。

一方、心を許せる友達もおらず、病気の子どもを抱えて、妻は不安でいっぱい。

成功して家族にいい暮らしをさせたい父親。
成功よりも安定した暮らしをしたい母親。

二人とも家族で幸せになるという目的は同じはずなのに、手段が真逆で譲らないので分かり合えない。

そのため、いつも夫婦は衝突してしまう。

子どもからすれば、環境なんてどうだっていいから、両親が仲良くしてくれて、みんなの機嫌が良いことがいちばんなのに。

妻は心の拠り所として、韓国から母親を呼び寄せる。

このおばあちゃんがトラブルメーカーでおもしろい。
家事はできず、花札が得意で、口が悪い。

弟は「おばあちゃんらしくない」を連呼し、湯呑みにおしっこを入れるほどに嫌う。(笑)
でもハルモニ(おばあちゃん)は、孫のことが大好き。
ハルモニに振り回されながらも、おかげで姉弟は両親の衝突という現実から逃れる、いわば休息所を得ることができた。

おかしなハルモニの存在は、本当に子どもたちの救いになっていたと思う。

終盤にかけて、夫婦はゆっくりと壊れていく。
そこでハルモニが大火事を起こす。
本当に、火事を起こす。

燃え上がる炎の中、すべてを失いかけて初めて、お互いの存在こそが、いちばん守りたいものだと気付いた夫婦。

夫が必死に育ててきた野菜を、妻も必死になって守ろうとした。
その姿を見た夫は、野菜を手放し、妻を助け、抱きしめる。

そのあとは、雨降って地固まるかのように、静かな時間が流れはじめた。
家族全員が横並びになって眠っている映像は、初めてかもしれない。
ずっと一緒に暮らしているのに、そうやって側にいることや、その有り難さって、ついおろそかになってしまうものなんだなと思う。

翌日、弟が父を秘密の畑に案内する。ハルモニがこっそり残してくれたミナリ(セリ)で、ビジネスもやり直せそうな雰囲気だった。
言葉なくとも、希望に満ちた感じのするエンディングがすごい。

序盤から、じわじわと毒に蝕まれる感じと、怒涛のクライマックス、
そして最も短く最も希望に満ちたエンド。
本当にうまくできた映画…。

わたしも両親が喧嘩した時は、おばあちゃんの部屋にこもっていたのを思い出して、懐かしい気持ちになった。
家族って、みんな違う人間だから、みんなが足を引っ張るし、みんながみんなの役に立てる。
そういうものだと大人になって思う。
わたしは、この噛み合わなさ、決して思い通りにいかないところ、命を削るような苦しさが、今となっては、自分を成長させてくれたものと思っている。
イ家の子どもたちも、これからいろんな障害をのりこえながら、大きくなってほしい。
AYN

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