イチロヲ

濡れた賽ノ目のイチロヲのレビュー・感想・評価

濡れた賽ノ目(1974年製作の映画)
4.0
漁師町で愛欲を貪り続けている飲み屋のママ(司美智子)が、自己喪失状態に置かれている放浪カップル(長田恵子&根津甚八)に遭遇する。自己を見失っている人間たちの混沌を描いている、日活ロマンポルノ。脚本の出口出は、荒井晴彦の変名。音楽の塚田みのるは、近田春夫の変名。

若松孝二唯一のロマンポルノだが、「(秘)色情めす市場」(田中登監督)との併映により存在が薄れてしまった作品。舞台の漁師町を閉塞的な団地に見立てると、60年代の若松作品をスライドさせたような感覚に陥る。

シラケ状態に陥っている若者カップル、極道から脱出できずにいる青年、その狭間に入り込む主人公。彼らの人間模様を通して、敗北の美学を描いていく。タイトルの賽ノ目要素としては、ツボ振りならぬヴァギナ振りの丁半博打が登場する。

主人公の女性は、男の立場からすると、癒やしを与えてくれる女神様のような存在。しかし、当の女の立場からすると、男は混沌を生み出す厄介者でもある。自由と破滅の表裏性を考えさせられる秀作。
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