蛙

おらおらでひとりいぐもの蛙のレビュー・感想・評価

おらおらでひとりいぐも(2020年製作の映画)
4.0
一瞬よりもいくらか長い時間。開明獣さんが最近、別の映画のレビューで使っていた言葉を思い出す映画でした。

沖田修一監督は昔から好きで、淡々と流れる時間の中から善意に満ちた、と言うよりも悪意を除いた日常にフォーカスし、それを少し引いた視線で切り取る。そうする事で浮き上がってくる暖かく幸せな可笑しみ。更に、時折り差し込まれる現実感(又はフォーカス外にあった悪意)で、画面の中で繰り広げられている幸せな空気はフィクションの中だけではなく、現実の私達の身の回りにも潜んでいる(かも知れない)、という気づきを与えてくれるのが沖田作品の特徴だと思います。

今作も沖田監督らしい暖かさに満ちながら、孤独というテーマと向き合った素晴らしい作品でした。
全体は3部構成。沖田節の可笑しみと共に、75歳の主人公桃子の孤独をコメディタッチで映す第1部。
田畑智子さん演じる娘が突然やってきて親切にしてくれながら、何か言いたそうにしている、不吉な訪問から始まる第2部。孤独というテーマにより深く踏み込んでいきますが、圧巻は2部のラスト。映画ではキャラクターが心情を台詞で説明する事は極力避けられるし、実際観ていて不自然な説明セリフは興が醒めてしまいます。しかし、この一連のシーンは実に映画的。こんなにエモーショナルな説明セリフはそうそう無いと思います。それに続くクライマックスも見事でした。
第3部はエピローグに当たる部分。ここでも様々な映画的な演出が素晴らしかったです。これまで現在の桃子の周りはグレーや濃紺など色彩を欠いたものばかり、対称的に過去の回想では鮮やかな赤やピンクが。しかしこのシーンからは、大々的にでは無いけれど、潜む様にひっそりと鮮やかな赤色が見え始め、呼応する様に桃子のメンタリティにも明らかな変化が。〇〇〇も板につきます。
彼女がずっと興味を持っていた太古の世界との決着にも映画的な処置が。寧ろ原作小説ではどの様に扱っていたのか想像できないくらい。

孤独とどう向き合うか、私達が逃れられない命題に優しい光が当たった様な素敵な作品でした。やっぱり沖田監督大好きです!
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