シャチ状球体

ポゼッサーのシャチ状球体のレビュー・感想・評価

ポゼッサー(2020年製作の映画)
4.2
キングレコードが毎年行っているキャンペーン、死ぬまでにこれは観ろ!2023にて本作のBlu-rayが発売予定なのを見て参考のために視聴。

デヴィッド・クローネンバーグを親に持つブランドン・クローネンバーグが監督するボディ・ホラー。
とにかく色々な方法で人の体に生じる痛みを描いていて、体に刺さるナイフから疑似的な臨死体験まで、容易に想像し得る苦痛と不安を煽るシーンが何度も登場する。

タシャ(職業:他人の意識を乗っ取って安全に殺人を行う暗殺者)は人体から流れる血液に対して執着を見せるけど、これはフェチズムではなく嫌悪感から来る行動だと思う。
宿主の脳へ自分の意識を取り込む過程でアイデンティティの不安定化が起こったり自他の境界線が溶けていき、しかも職業柄手で触れられる温かいものが血液の他にない。見たくないし流れてほしくないものだと分かっているのに、だからこそ生を確かめるために求めてしまう。

"仕事中"にタシャの身に起こる奇妙な出来事はジェンダー・アイデンティティの揺らぎとも捉えられ、劇中でジェンダー表象の異なる複数の人物の外性器が強調されるのは目に見えるもので第三者に自分を区別される既存の社会規範に対する批判だろう。

自分が自分ではない、かといって他人でもない名前のない場所に位置しているような不快感。自分にしては姿が違いすぎるし他人にしては生々しい。特に解があるわけでもなく、居心地の悪さが最後まで持続する。体とアイデンティティには明確に違いがあることをホラーというジャンルで表現して見せる新感覚の映画。
シャチ状球体

シャチ状球体