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MOTHER マザーのtakanoひねもすのたりのレビュー・感想・評価

MOTHER マザー(2020年製作の映画)
3.5
埼玉川口市祖父母殺害事件を題材にしたドラマ。

再鑑賞。

祖父母殺害の実行犯は17歳の少年。
しかし彼と母親との関係は共依存という、母親に完全にコントロールされた状態であり、殺害指示は母親からあったものと確定していたが、本人が全ての罪を被ったため、母親の方の量刑は軽く、少年は12年という実刑判決になった。

この作品は、少年の生い立ちから犯罪実行までを描いた内容になっている。

奔放な母親と暮らしていたため少年は長い間"居所不明児"だった。
学校に通っていられたのもわずかな期間で、彼の学力は小学生低学年レベル。
学習意欲は高かったが、学習の機会をことごく母親に潰されてしまう。

また彼には妹がおり、自分が妹を守らなければこの母親によりいずれ"売春"等をやらされることを考え、妹を守ることに傾注する。

それを母親は知っていて少年を意のままに操る種にもしていた。

長澤まさみさんの演じる毒親っぷりが弾けまくっている。
同様に阿部サダヲさんのクズ男っぷりも。
「帰れよ!」と泣き叫ぶ女の前でベッドに飛び跳ねダンスするシーンのクソっぷりにサイコパスみを感じた……。

親ガチャという言葉はあまり好きではないが、まさに子供は親を選べないという悲劇であり、また、祖父母を初め伯母、元夫、役所の人間、児相スタッフ、ラブホの支配人、少年が勤務した職場の上司など、少年の存在を認識していながら、明らかに毒親である母親から引き離すことも、彼女からの悪影響を慮り少年を救うことが出来なかったという反省を観た人間に促す物語でもあると思う。

ラストシーンは少年の台詞と母親の台詞、そして児相スタッフが母親と触れ合うシーンで幕を閉じるが、そんな曖昧な観ようによっては美しさを覚える演出で終わらせていい事件ではないと思う。

「自分が産んだ子供をどう育てようと私の勝手だろう」ことをラスト間際に母親が言うが、まずその認識が危うい。
子供を己の道具かコピーとしか考えておらず、自分の意のままにならない時は心理的に追い詰め従わす。
(劇中の「お前うんこくせーんだよ」「あんた嫌われてるよ。それに臭いって」という台詞が巧みに使われている)

惜しむらくは、少年が母親と居ることを望んだ理由に、幼少時の置き去りにされたことがトラウマになっており(母親が名古屋へ言ってホス狂いしていた)その演出をもう少し踏み込んだ形でしてほしかったかも知れない。

何にせよ、秋子を演じた長澤まさみさん、幼少時の周平役の群司翔くん、17才の周平を演じた奥平大兼くんが素晴らしかったです。