はやひ

ナイトメア・アリーのはやひのレビュー・感想・評価

ナイトメア・アリー(2021年製作の映画)
4.2
少々のネタバレがありますが…

この映画はよく言われているような「因果応報ストーリー」や「嘘をつく人は嘘で堕落するという訓話」ではなく、
「抑圧される側からする側への反抗の話」だと思う。

そういう意味では同監督のシェイプオブ〜やパンズ〜と全く同じテーマ。もちろんフェミニズムの要素がそこかしこに散りばめられている点も同じだろう。サスペンスノワールの皮を被っているが、それに騙されてはいけない。

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獣人への過剰防衛(「馬乗り」姿勢)、駆け落ち後の夫婦の「上下」関係、その後何度も出てくる「俺にはなんでもお見通しだ」という姿勢など、スタン(ブラッドリークーパー)という男は常に上に立ちたがる人間。
(父親の影響?)

特に顕著なのがリリス(ケイトブランシェット)への態度や発言(自分を批判してきた女を「打ち負かす」ための執拗な反撃、「貴女はとてもわかりやすい」という発言など)。
対してリリスも読心術の仕掛けの看破に始まり、「レディではなくドクター」発言や「真実を教えて」と見破る側に回る発言をして応戦する。
スタンの増長はエスカレートし、さまざまな人を食い物にしていくが、
やがて全てリリスの術中であったこと(「分かりやすい女」として見ていた相手が食えない策士だったこと)が判明する。

この場面のカタルシスこそが本作最大のハイライトであり、同時に最もメッセージが込められた部分だと解釈すべきだと思う。
ケイトブランシェットの高笑いが凄い!)

※ちなみに「リリス」という名前は旧約聖書に登場する悪霊「リリス」から来ていると思われる。リリスはアダムの最初の女ともサタンの妻とも言われ、近年は女性解放運動の象徴の一つとしても扱われることが多い。

リリスの高笑いは、単にスタンをやり込めたことの悦びではなく、これまで直面してきた男性からの女性軽視に対する復讐が達成されたことへの満足感の表れとも取れる。

そしてそれは「純粋で可愛い」(=男に都合の良い搾取対象である)モリーや、スタンから騙された人たちを代表した反逆行為。

父親から無自覚に引き継いでしまった(と思われる)男性スタンの他者への自己中心的な態度に対して、それに抑圧されてきた人たちの代表としての女性リリスが反逆した話として理解すると、
本作には象徴的セリフが数多くあり、アイロニカルに表現されていることに気づける。
また単純な因果応報ストーリーとして理解すると「間延び」と感じるシーンも、意味や意図があって描かれていることに気づく。

とはいえ自分も気づいていないことだらけ。複数回観たい!
はやひ

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