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ナイトメア・アリーの都部のレビュー・感想・評価

ナイトメア・アリー(2021年製作の映画)
3.2
ウィリアム・R・グレシャムの小説『悪夢小路』の二度目の映像化となる本作は、二時間半という尺を冗長に弄びながらも、退廃的な世界観の構築に長けたギレルモ・デル・トロの手腕により奇妙なフィルム・ノワールドラマとしての品格をかろうじて確保している。物語前半部分の見世物小屋のルックはやはり抜群の一言で、"フリーク"としてのキャラクター達の生活感漂う興行の数々は雰囲気作りの一端を担っていた。

原作がほぼ一世紀前の作品であるので現代のエンタメ的な派手派手しい展開はなく──原作に対するリスペクトとも取れる──緩やかに堕落の未来を辿っていく男の狂気的な言動は作劇上でも決して魅力的とは言えないが、ブラッドリー・クーパーによる繊細な小男像の形成により場を持たせることには成功している。

自分の運命からの逃避という男の動機は個人的に好ましかったが、尺に対する掘り下げとしてはやはり不十分さは拭えず、物語の没入感も半端である。しかしながら物語の顛末は悪趣味に小粋で感嘆を漏らす程度にはその結末に納得がある。言ってしまえば本作のテイストは暗黒寓話なのだが、ディテールの拘りと内容の厚みが見合っていないようにも思える。
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