MasaichiYaguchi

無頼のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

無頼(2020年製作の映画)
3.5
アウトサイダーを描き続ける井筒和幸監督の8年振りの最新作は、ヤクザたちの視点から昭和史を描いた群像劇。
母を幼少期に失った主人公・井藤正治の極貧生活を送る1956年の少年時代から始まり、やがて甲斐性無しの父も亡くなってからは生きる為にヤクザ道を歩んでいく。
そんな彼の下には暴走族あがり、落ちこぼれ、ツッパリ、全共闘くずれという社会の「はみだし者」が集まり、家族の様な組を構成していく。
井藤はヤクザ界の頂点を目指すべく、行く手を阻む邪魔者はあらゆる手段で排除して、イケイケでのし上がる。
そんな恐喝と暴力に塗れた井藤をはじめとした組の面々は、刑務所と娑婆を行ったり来たりする羽目になる。
この無頼たちの道のりと並行して昭和に起きた事件や社会風俗が描かれていく。
社会の変化は無頼たちにとっても無縁ではなく、高度経済成長、石油危機、政治家等との癒着&収賄、バブル崩壊、「暴対法」と略されたり「暴力団新法」と呼ばれたりする「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」の施行によって、彼らの人生も山あり谷あり、浮き沈みしていく。
特に1991年に施行された「暴対法」は、劇中の「ヤクザは生きるなってことだろ。生まれた時から引きずっている境遇があんのにな」という台詞が表しているように彼らを追い詰めていく。
井筒監督は社会のあぶれ者、こぼれ落ちた者の視点で社会を俯瞰し、同調圧力をはじめとした抑圧に屈することなく生きる者たちにエールを送っているように感じる。