鴨橋立

無頼の鴨橋立のネタバレレビュー・内容・結末

無頼(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

井筒和幸監督の8年ぶりの最新作。

K's cinema、シネ・リーブル池袋と都内2館の上映というのはあまりにも勿体ない。

良くも悪くもヤクザ映画ジャンルで観る人を選びそうではあるけど、

昭和史と重ねて何回も映画館が出てきたり、そこはやっぱり井筒和幸が撮るんだからワンス ・アポン・ア・タイム・イン・任侠道的な面もある。

もちろん日本のリアルなヤクザを描く上で避けては通れない東映実録映画へのリスペクトも随所に感じられるが、

印象として一番近い作品は劇中で完コピされた「北陸代理戦争」でも「仁義なき戦い」でもなくマーティン・スコセッシの「アイリッシュマン」だった。

制作期間的に今作が作られている途中で公開されたため直接的な影響というわけではなく、制作者の話を聞くとアイリッシュマンを観た時驚きと期待があったらしい。

これでこの作品が受け入れらる土壌ができたと。

だか悲しいことにせっかくできた土壌もこの公開規模と認知度だとあんまり意味が無い気がする。。

こんなにうまい、というより役にフィットするのか!?と驚いたEXILE松本利夫はもちろん

眉毛が無くて怖いラサール石井とか川谷拓三チックな佐藤五郎、スティールダークという傑作短編の監督でもある髙橋雄祐…と、とにかく役者たちの演技にリアリティが溢れててすごい!

リアリティといってもヤクザ者としてのリアルじゃなく人間としてのリアルがあって作品の核となる部分がしっかり一人一人の演技に反映されていて素晴らしい。

物語の最初からそうなんだけど、特に中盤以降は主人公がどんどん受け身になっていって、生き方を選べなかった男がついに自分で選択するという意味合いのあるラストになっていて、

さらにそれが幼き日の自分、まさに選択肢のなかった自分自身を救うというのがもうなんともたまらん。

終盤、仁義なき戦いの松方弘樹の台詞が引用されるのは松方弘樹演じる酒井の哲っちゃんがこの台詞の後にどうなるのかを考えれば、

そこから抜け出す大好きな組長に対し、そして一緒に組を抜ける自分に対してコレでいいんだ、と涙ながらに言い聞かせているように見えてこっちまで泣けてくる。

それまでの任侠映画に「いやいやそんな美しいものじゃないよ」と『仁義なき戦い』が作られたのなら

今作は「いや、でもやっぱりやくざだって人間だから」と井筒監督がさらにリアルを追求したのが今作だと思う。


季節のない街に生まれ
夢のない家を出て
今日ですべてが終わる
今日ですべてが変わる
今日ですべてがむくわれる
今日ですべてが始まるさと思いながら
曲がりなりにもまっすぐに生きてきた男の人生の映画です。

映画のかかる場末の映画館は
きたないところですが
ヒマがあったら寄って観て下さい
ほんのついででいいんです
一度よって観て下さい
鴨橋立

鴨橋立