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スイング・ステートのsomaddesignのレビュー・感想・評価

スイング・ステート(2020年製作の映画)
5.0
六馬和せざれば造父も以て遠きを致す能わず

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ヒラリー・クリントンがトランプとの大統領選に敗北した日から数日後。傷心の民主党選挙参謀ゲイリー・ジマーは、激戦州を取り戻すべく秘策を練っていた。ある日スタッフが見つけてきたYouTubeで話題の退役軍人ジャック・ヘイスティングスのスピーチを目にし、彼を町長選挙に立候補させる。地道な選挙活動がスタートするが、対立候補の現役町長ブラウンに共和党がトランプの選挙参謀フェイス・ブルースターが送り込まれる。小さな田舎町が民主党 vs 共和党の巨額を投じた代理戦争の戦場となっていくのだが…。

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邦題に原題と違う英題つけるの超ややこしいからやめて欲しい。原題は「IRRESISTIBLE」=抵抗できない。英語版ポスターだと「RESIST(抵抗)」の部分だけ赤字になってて、真逆の意味も示唆してる。大オチの伏線でもある。

「マネーショート」「バイス」に続いて、三度PLAN B とスティーブ・カレルの組み合わせ再び。小難しい題材をポップなコメディに昇華しつつも、見た後で観客の心に傷跡を残す、笑うに笑えない現実を突きつけてくる。政治経済コメディの快作。
腐敗したのは仕組みか人か。えげつない選挙戦のあれこれを見せられるようで、党利党略に利用される田舎町の悲哀や、捨て置かれた人々の暮らしが痛々しい。
一方で、選挙がショービズ化、エンタメとして経済活動の一部に組み込まれて、その制度が何のためのものか有名無実になってる現状も浮かんでくる。

劇中出てくるスーパーPACについては、企業や団体が直接献金できないので政治献金の受け皿となる資金管理団体のこと。建前上は応援団みたいなものなので、選挙運動の看板やイベント資金や、対立候補のネガティブキャンペーンはこの応援団が勝手にやってることになっている。誰がどう見ても組織的指示のもとキャンペーンしてるはずなのに、制度上は無関係を装う。暗黙の了解の闇が深い。

善人とはどういう人か、と問われてる映画でもあったような。
正義のためになら、どんな非道な手段も辞さないのは正義か悪か。大義のための小悪はどこまでなら許されるのか。人は潔白で生きられないって大前提はあるけど、その上に開き直っちゃうとどんな悪事にも手を染めれちゃう。

一般人の目線からすると、現状を憂うばかりじゃなくて「有権者ナメんなよ!」って着地が痛快。現実には起こり得ないだろうけど、法律的には可能らしい。ああいう解決策もあるのか。


久しぶりにコメディに振り切ったスティーブ・カレルが痛快。ライバルの女性選挙参謀フェイス共々、まークチが減らない&クチが悪い。愉快と不快のギリギリの悪口の応酬が面白い。大真面目にアホくさい発注したり、パワハラぎりぎりの部下への無理難題っぷり。実際にはどうだか分からないけど、権力構造の縮図を見てるみたい。

ローズ・バーンは普段大人しい常識人を演じることが多くて、スティーブ・カレルとタイマン張れる気の強いコメディエンヌキャラがギャップ大きくて面白かった。ちゃんと有能で、自分のパブリックイメージすらコントロールした上でしっかり利用しちゃうしたたかさ。ゲイリーもフェイスも口が悪くて、罵詈雑言ボキャブラリーの豊富さが突き抜けてて面白かった。お互い出し抜かれると素直に悔しガッちゃうの可愛い。

以下ネタバレ)
大オチを知ってから見返すと、町に来たばかりのゲイリーのことがあっという間に噂になってる理由が良くわかる。特別扱いしてる理由も。田舎町の人間関係の密度の濃さを表れだし、彼らが待ち構えてたカモだもんね。過疎地の悲哀と閉塞感の反面、繋がることの強さも描かれてた。



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