21/6/1@府中#6
<ありそうでなかった視点>
「酔う」ほどに息苦しいが、見て良かったと思える秀作。非論理世界を観客に体感させるために、論理的に映画を構築する脚色が見事。
「酔う」といっても場面はほとんど室内だし、グラグラのカメラワークがあるわけじゃない。ただ「痴呆の主人公が見ている世界」という切り取り方、それだけで酔ってしまう映像体験に、足元が揺らいでくる感覚。これは本当に辛そうだし、寝ても疲れが取れているとは思えない。なにより自分が自分でなくなっていく、皮肉にもそれだけはちゃんと解ってしまう怖さ。普段は120分以内の作品を物足りなく思う自分だが、本作はこの97分で限界フラフラ。良い意味でもうお腹一杯だった。
どうすれば観る者を最大限に混乱させることが出来るか?そこを「実は緻密に」計算して作られている印象。辛さ承知でまた見直せば、新たな発見がありそうだ。
アカデミー賞作品だが、監督(なんとこれがデビュー作!)はフランス人で、作品の手触りは欧州映画のそれに近かった。絶望の主人公アンソニーだが、それでも生きていく価値のあるこの世界。暗闇に微かに差し込む一条の光のようなラストシーンが心に残る。