コウキ

ファーザーのコウキのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.3
混沌とした記憶は困惑を招く。

ロンドンで一人暮らしを送るアンソニーは、認知症によって記憶が薄れ始めていた。しかし、介護施設に入ることはおろか、介護人を付けることさえ拒んでいた。そんな状況の中、アンソニーの暮らす家やアン、アンの夫と、周囲の環境や言動がチグハグになっていく。

鑑賞後真っ先に感じたのは、恐怖。そこらのホラー映画よりよっぽどの恐怖と不安を感じた。
認知症がどのような感覚なのかを追体験できる映像体験は貴重。『サウンド・オブ・メタル』も同様の映像表現だったけれど、この当事者と同一化する映画体験は素晴らしいものだと思う。

介護を受ける側のみでなく、介護する側の言動や家族からの暴力なども丁寧に描かれていて、よりリアリティのある社会問題を映し出す作品。
ラストのアンソニーには、人が人生を歩む果てに原点へ立ち帰る様子が感じられ、老後を考えさせられた。
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