なっこ

ファーザーのなっこのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
3.2
少ない登場人物

繰り返し重なるような時間軸

同じようなしつらえの室内

目覚めて起きて会話して食べてまた寝て…気がつくと自分が何処にいるか分からない
今がいつかもわからない、朝なのか夜なのか

木々から一枚、また一枚と葉が落ちていくように大切な記憶が離れていく、失われていく、その恐ろしさ、怖さ、心もとなさを、当事者以外の人が分かったなんて言うことは出来ない。ただ想像するしかないけれど、映像で表現するなら、きっとこんな世界なんだと見せてくれる作品。

主役はアンソニー
でも、私は娘のアンに強く共感して見てしまった。
きっとこの物語を書いた人は認知症の人が見ている世界をよく分かっている。そして、それ以上に支える人の辛さをよく知っている。この映像が捉えていないところで行われた彼女の選択は、けして間違っていない。けれど、どうしようもない寂しさが漂う。こんなにどちらも孤独なのだと知らされてしまった。

常にケアの役割を担う側にまわされる女性の立場について考えさせられる。

でも、ラストシーンでよく分かった。

生まれてきて最初の安全地帯を作ってくれた人
日常で今もそばに居て安心を作ってくれる人

それがイコールで結ばれる

そのあたたかさをくれる人から私たちは離れて生きていけない、それがとてもよく分かるラストシーンだった。

最近読んだ本の中では、『なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか』がとても分かりやすかった。
でも、頭で分かっていても実際に肉親を目の前にして冷静に介護が出来るかどうかは別問題だと思う。
この映画の中の娘は常に冷静だった、そんな彼女が妹と比べられ続けるのは哀し過ぎた。『ジョー・ブラックをよろしく』で同じようにアンソニー・ホプキンスの娘役で不器用な長女役を演っていた女優さんと面影が重なって感慨深いものがあった。
なっこ

なっこ