ゆずきよ

ファーザーのゆずきよのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.0
認知症がテーマの映画。
1度目だと理解するまで時間がかかり、2度目に意味を理解してから観ると信じられないほど恐怖する。
介護に少しでも携わった事がある人ならより怖いと思う。色々な意味で。

物語は、記憶が途切れる事がある老人が、介護される事に対して否定的で、娘とも衝突しているという内容。
アンソニー・ホプキンス演じるこの老人が、自らの状況を理解出来ていない。
更に同じ事が起こったりと整合性の取れない出来事や台詞、更には登場人物の容姿でさえ違う。
それは後にそういう事かと理解する事にはなるのだけれど、そうなるまでは本当に訳がわからない。
そして、その意味のわからなさがサスペンス的な怖さだとしたら、根源的な恐怖は意味を理解した後にやってくる。
ただこれは決して特別な事ではなくて、日本で約600万人の人が症状の程度はあれど、同じ様な出来事に直面している。
世界的に見ても日本はトップクラスの患者数。
何が救いかはわからないラスト。
映画としては、最終的に何が伝えたいのかが見えにくい部分があって、テーマだけ見ても素晴らしい映画なんだけど、個人的にはもう一歩踏み込んで欲しかった。

良く介護と育児を混同している人がいますが、実際は全くの別物です。
タコ飯とタコライスくらい違います。
「出来ていた事が出来なくなる事」と「出来ない事が出来るようになる事」は、周囲の人間にしても「段々と手伝う事が増える」のと「段々と手伝う事が減る」のでは気持ちが全然違いますよね。
育児はある程度の目安があって、終わりを意識する事は出来るにしても、介護はそれこそいつまで続くのかの目安は見えにくいです。
それも大きな違いの一つだと思います。
勿論どちらも大変な事だし、それぞれ苦悩があります。介護の方が大変だという話ではありません。
だからこそ混同してはいけないと思うんです。
同じ麺類でもタンメンとタンタンメンくらい違う事ですから。
小言を言う様で申し訳無いのですが、最後にもう一つ。
老いは必ず誰しもに訪れます。
自分がそうならないなんて保証は無いんです。
だからこそ今できる事は考える事。
情報を得る事。
そして、来るべきその時に怯えながら、精一杯生きる事しか無いんです。
ゆずきよ

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