凄く恐い映画でした。アンソニー・ホプキンス演じるファーザー。すごかったです。流石アンソニー・ホプキンスの演技でした。
(ネタバレあります。)
ロンドンに暮らす、81歳の認知症の老人アンソニー。記憶が曖昧になっていく彼は、娘アンの手配した介護人を断る。そんなある日、恋人とパリで暮らすと父に告げるアン。しかしアンソニーのもとにはアンの夫だという男が現れ、自宅の所有権を主張し始める。現実と妄想の区別がつかなくなって行く…。
と、言うのが大体のあらすじな訳だが、見ている観客は何が真実なのだか分からなくなってくる。最初アンソニーはしっかりしているように見え、娘がいい年をしてつまらない男に引っ掛かってパリに行くと言っている録でもない娘に見える。しかし暫くすると娘はまともで父親の方が認知症だということが分かる。普通の映画は認知症の父に振り回されながら娘が一生懸命介護する姿を描くのだがこの映画はそうではない。認知症になった父親から見て世界がどう見えるかを描いている。娘が変な男に引っ掛かって心配だったり、その男が自分の家に同居して入り込んできて自分の家を乗っ取ろうとしているように見えたり…。このアンソニーからみた世界が何処まで本当なのか観客には分からないのでひょっとしたら娘の旦那はいい人で乗っ取ろうとなどとしていないのでは？とか、はたまたひょっとしたら旦那自体が妄想で存在しないのでは？とか何が本当で何が妄想なのか全く分からないのだ。旦那の顔が変わったり、ひどい苛めをされたりもするのだが、これも真実か妄想か観ている観客には分からない。何が何だか分からずに観客は映画を観ることになるのだが、これこそがアンソニーの感じている不安や戸惑いに他ならず、観客はアンソニーが見たもの感じたものを追体験する。実に良くできた脚本だ。
娘役のオリヴィア・コールマンの演技も素晴らしい。父親に対する愛や旦那との間に立つ苦労や色んな感情を実に上手く演じている。
そして今さら言うまでもないがアンソニー・ホプキンスの名演だ。
私はこのレビューの最初に「凄く恐い映画でした。」と書きました。アンソニー・ホプキンスの演技があまりに見事ですっかりアンソニーの気分になって映画を観てしまいました。自分もこうなるのではないかという恐怖。もしこうなったらどうしよう？どうすれば防げるだろう？こうなった時の為に何を準備しておけばいいだろう？施設に入れられるしか無いのだろうか？この介護人は好い人だけどこんないい介護人に当たるとは限らない。世の中には介護人による事件が溢れているではないか。色んな事を考えながら観てしまった。
怖くてしようがなくなって実は途中で観るのを止めて長いこと放っておいた。もうすぐAmazonプライム配信終了となったので慌てて見直しました。やはり恐くて恐くてしようがなかった。途中で気分が悪くなる程恐い映画でした。
