このレビューはネタバレを含みます
劇中で多くは語られず、また視点はアンソニー・ホプキンス(素晴らしい演技!)演じる「ファーザー」のもの。しかしそれこそが巧みなギミックで、みるみるその混乱の奥地へと誘われてゆく。
かつてThe Caretakerがリリースした6枚から連なるアンビエント・アルバム「Everywhere at the End of Time」を、私は思い出した。記憶が薄れるということは、世界が崩壊していくことそのもの。貴方の大切な人や私たち自身が彼と同じような感覚に陥った時、それぞれの人生は一体どこへ向かうのだろう。
この映画はそれを端的に表現していて、さらには鑑賞者にまでそう錯覚させる演出が非常に憎い。アンソニー・ホプキンスもハマり役のように思う。最小限のアイデア、工夫から引き算の美学も感じられる名作。